第5話 新政府の役職②

 坂本龍馬から、私があらゆる参与に入れられているという話を聞き、二条城に急いで向かった。


 同じく本人が知らないうちに入れられていた沖田と土方もついてきている。


 日本全国の大名が集っているため、当然に二条城の警護も厳しい。ここには見廻組が大勢いるようで「何者だ?」と問いかけられた。


「おいおい、何者だ、もないだろう。旗本さんの身分だったのは数日前までだぜ。偉そうにやるのなら国の変革を知らない不忠者だし、俺達を本当に知らないのなら無能だぞ」


 と、土方が不敵に笑いながら言う。「くっ、土方……」と呻いたところを見ると、どうやら知っていて嫌がらせをしていたようだ。


 新選組と見廻組は決して仲が良いわけではない。


 そうした意識の違いは、もちろん天皇が変わったとか、元号が変わったとかで変わるものではない。



 幸いなのは、現在、ここの警護を任されているのは見廻組だけではなく、遠路はるばるやってきた薩摩や長州の兵もいる、ということだ。


「あれ、山口殿ではないですか」


 彼らは当然、私達に敵意を持っていない。見廻組に対して「彼らは大丈夫ですよ」と言っている。


 土方が楽しそうに笑っているが、こうなると見廻組も抵抗するだけ馬鹿を見ることになる。悔しそうな顔をしつつも通すことにしたようだ。



 中に入り、急いで会議がなされている二の丸御殿の大広間へと入った。


 そこには、確かにいるわ、いるわ。


 俗に江戸300藩というが、まさにそれだけの人数がたむろしている。全員が入りきらないので、一部は老中の間や式台にも収まっている。


 その奥の方に机が出されており、薩摩の家老である小松帯刀が記している。


「おや、山口先生、いかがなされた?」


 私に気付くと小松が呑気に尋ねてきた。


「坂本先生から、私が全部に任命されていると聞いて、慌てて飛んできました」


 そう言って中身を見る。小松も「どうぞ」とあっさり見せてくれた。



 組織としては、全てを総覧する総督がいて、その下に議定、参与という形になっている。


 総裁は2人で、有栖川宮熾仁親王ありすがわのみや たるひとしんのうと徳川家茂だ。


 征夷大将軍の家茂は文句なしだろう。また、親王は史実では新政府軍の東征大総督となっている。


 一番上にこの2人がいるのは問題ない。


 その下の議定はまだ決まっていないようだが、朝廷関係を司る神祇官、内務関係を司る内国官、外交関係を扱う外国官、軍隊と関係ある陸海軍官、国家財政に関わる会計官、刑事裁判に関わる刑事官、最後に今後の法制度などを制度官、開拓関係を司る開拓使、大学関係を扱う大学官が決められている。


 その参与名簿には、確かに全て私の名前がある。


「いくら何でもこれはありませんよ!」


 私が抗議すると、島津久光が頭をかく。


「いや、まあ、確かに全部は多いかなと思ったが、他に思いつく者もおらんでのう」


 徳川慶喜(兄に代わって水戸の代表として出ているようだ)も同意する。


「とりあえず、一太を入れておけば問題ないだろうと思って、な」


 居酒屋で「とりあえずビール」的なノリで「とりあえず一太」と入れたと言わんばかりの言いようだ。


「それに、変に他藩の者を入れると、近くの藩の者が妬むかもしれぬ」


「そうそう。その点、一太なら全員が得体のしれぬ存在と認めているから、波風も立たない」


「いや、それなら他の幕臣だっているでしょう」


「とはいえ、のう。全員が知る者というと、勝海舟とか小栗上野介と山口一太くらいしかおらぬ」


「……」


 確かに知名度がある存在となると、その2人になるのだろうか。私もパッと思い浮かぶとなると、その2人。他の者はちょっと迷うし、もっとよりよい者がいるのではないかと不安になる。


 能力で言えば、榎本武明と大鳥圭介がいるのだが、現在国内にいない者を選ぶわけにはいかない。


 彼らを選ぶのなら、燐も選べるわけだから、そうなると楽なのだが……



 だからといって、全部引き受けるわけにもいかない。


「せめて三つにしていただきたい!」


「むう、仕方ないのう……」


 私が何度も抗議したので、島津、毛利、慶喜あたりがまたも話し始める。


「では、外国と会計と制度でどうか?」


「……分かりました」


 本当は一つに専念したいが、やむをえない。


 私がそのような状態なので、沖田と土方は渋い表情になった。旗色が悪いと見たのだろう。


 沖田がおずおずと尋ねる。


「あの~、殿様。仕事って大変なんですか?」


「もちろん。今後のこの国のことをお前達が決めることになるのだから」


「うわぁ、参ったなぁ」


 沖田が頭を抱える一方で、土方はまだあきらめていないようだ。


「フランス帰りのはふさわしいと思いますが、拙者は日野のしがない商人育ちです。とても政府の要職が務まるとは思いませんが」


「何を言う? 会津公がおまえの取り調べはこの日ノ本随一だと評価しているぞ」


「……」


 どうやら、土方も逃げ場はないようだ。


 拷問で得た情報なので、近代化を目指す上ではどうかとも思うが、まあ、当面は仕方ないのだろう。

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