第4話 新政府の役職①

 二日、大坂城で新天皇とカナウンが面談した。


 この面談で新しく進んだものは特にない。前日に私がした話、西郷がビルマで頑張っているという話、電信についての確認を改めて成しただけだ。


 ただ、カナウンにしてみれば日本の新天皇に面会したという事実はまあまあ重きをなすはずだ。西郷への書状(日本語と英語。さすがにビルマの言葉は書ける者がいなかった)を受け取ったことで、西郷もより励みになるだろう。


 一方、まだ若い新天皇にとっても、現役バリバリで、しかも亡国に瀕している国の王族と面談したというのは大きな意味があったようだ。もちろん、エドワードと会見しているが、彼は第一線で活躍しているわけではない。


 カナウンは第一線で、実務を行っている。理論だけでないことが分かったことは収穫だったのだろう。


「一太よ、国を背負うというのは大変なことなのだな」


「左様でございます」



 進展というか新しい展開としては、近いうちに東南アジアに日本からも使節を送るということである。


 今回のカナウン訪問に対する返礼としてビルマに立ち寄るのはもちろんのこと、イネさんが王宮にいるタイも候補となるだろう。


「……中国や朝鮮はどうすれば良いだろう?」


 新天皇の言う通り、問題はそこになる。


 江戸時代の日本が公式に使節を迎え入れていたのは朝鮮だけだし、中国の影響はやはり強い。


 ただ、中国はようやく太平天国の乱が終わったばかりで、しかもまだ稔軍の反乱が起きている。


 ゴードンは挨拶をして香港からシンガポールに撤退してしまったから、鎮圧に手間取るかもしれない。


 史実で日清が条約を結んだのは1871年だったはずだから7年後だ。


 その頃には落ち着いているのかもしれないが、今度は「ビルマやタイより我々清が後回しなのか」と文句を言ってくるかもしれない。


 席次というかメンツというか、そういうものも中々厄介なものなのだ。


 同じことは朝鮮にも言える。



 あまりあれこれ考えていても仕方がない。


 明日のことを考えよう。


 明日の午の刻に江戸、京、大坂、長崎などで一斉に御触書が出される。新天皇が即位し、元号が慶応に変わり、今後は憲法にのっとった政治を行い、近代化を目指すという内容が書かれてある。


 当たり前だが、インターネットはもちろん、テレビもラジオもない時代なのでそうした形で行われることになる。


 もちろん、イギリスやアメリカには新聞はある。日本にも瓦版などはあるが、新聞という形のものはまだない。


 新体制が始まると当然、新聞に類することを行うものは出てくるだろうが、それはもう少し先の話となりそうだ。



 そんな形で三日を迎えた。


 二条城に全国の大名が集い、その前で新天皇の即位式典と宣言、その後の会議が行われることになる。


 私はその場には参加しない。大名しかいないところに入っていくほど強引ではない。


 会議も勝海舟達が執り行うので任せることにした。



 役職というが、どのような役職になるのだろうか。


 実際には幕末から明治初期にかけて短期間で組織図や呼び方が色々変わっている。もちろん、主要な役目は共通している(軍事とか外交とか宮内省みたいなものは絶対に必要だ)が、人数や呼び名がどうなるかは分からない。


 まあ、諸大名が全国から集ったのである。どうせなら、全員何かしらの役職は貰いたいだろうから紛糾するのは間違いない。


 触らぬ神に祟りなしだろう。



 ということで、朝から近藤に土方、沖田とともに京を見廻りながら話をすることにした。


「これだけの大名がいて、京に大砲でも撃ち込まれたら、俺達は全員切腹しなければならねえな」


 土方の話に近藤が「はっはっは」と笑っている。


 全くその通りなので全く笑える話ではないのだが、とはいえ、1人2人ならともかく諸大名全員ともなると日本自体も終わりになるかもしれない。そこまで行けば笑うしかない、ということもあるだろう。


 ま、実際は心配はいらないだろう。


 何せ今、二条城には天皇もいるのであるから、どれだけ尊皇攘夷であっても攻撃することはできないはずだ。いるとするなら、完全な反政府主義者だろうが、幸か不幸かそうした立場の者が生まれるほど日本の政治知識は広がっていない。


「治安自体はどんなものです?」


 近藤に尋ねてみた。


「うーん、やはり事件は減っているよ。天狗党が全滅したという話で、尊王攘夷派もは完全にいなくなった。国に帰るかどこかに逃げるかしたんだろうね」


「そうですか」


 それなら良かった、と思っていたら不意に背後から呼び声が聞こえてきた。


 振り返ると坂本龍馬が走ってきている。勝海舟の一番弟子を自称する坂本が自分を呼んでいるのは嫌な予感だ。


「山口先生、勝先生が早く来てくれないと大変なことになると言っていますよ」


 龍馬の第一声。


「いや、私が行っても諸大名を宥めることはできないと思いますし」


「いえいえ、そういうことではなくて、沖田先生や土方先生も含めて、勝手に参与にされていますけれど?」


「は……?」


 勝手に参与?



 そういえば、慶応年間には大臣みたいな議定職があって、その下に参与職がいたか。


 議定は大名が就くことになって、参与はサポート役……官僚上位みたいなものだから我々もなりうるということか。


「俺も職があるの?」


 土方と沖田が驚いている。逆に近藤は2人に職が回ってきたのに自分だけなくてちょっとがっかりしているようだ。


「土方先生は内国事務の参与で、沖田先生は陸海軍の参与です」


 なるほど、内国は警察業務もあるから土方向きだし、沖田のフランスでの軍務経験も評価されたということか。


「ということは、私は外国関係でしょうか?」


 龍馬に尋ねると、何故か冷めた目線を向けられた。


「そんなはずないでしょう。島津公や毛利公が、山口は何でもできるからとりあえず全部入れておこうと話をしていて、朝廷まで含めて全部の参与に入っています」


「何だって!?」


「だから早く来ないと大変なことになると言っているんですよ。知りませんよ、どうなっても」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る