第11話 燐介、アルゼンチンのスポーツ熱に圧倒される
ソーントン卿の誘いに応じて、早速ブエノスアイレスクリケット&ラグビークラブを訪ねることにした。
ついてみると、イギリスやドイツやイタリアから来たという人達で大騒ぎだ。
「アルヘンチーナ! アルヘンチーナ!」
クリケットやラグビーの選手達が一様に騒ぐ中、責任者のフランク・パリッシュと話をする。イギリスからの助っ人で、そのまま責任者に収まったらしい。
「ここアルゼンチンは非常にスポーツにも熱心だ」
「それは良く分かった」
「経済も非常に発展している。現在はまだまだロンドンには及ばないが、あと10年もすれば近いものにはなると考えている」
まあ、アルゼンチンは南米のパリと呼ばれることもあるわけだからな。
実際、多少やり過ぎなんじゃないかという気もするが、経済は栄えそうに思えてくる。
「アルゼンチンがヨーロッパに比肩する存在であると示すために、もし、具体案がないのならオリンピックをアルゼンチンで開いてくれないだろうか?」
「何と?」
オリンピックをアルゼンチンで!?
「そうだ。競技場などは全てアルゼンチンで用意するし、渡航費や滞在費も国が負担してくれる。全て我々に任せてもらえればいい」
お、おぉぉ。
凄い意気込みだ。
そこまで至れり尽くせりだと、確かにすごく楽だ。
そういえば、サッカーのワールドカップの第一回大会は同じ南米のウルグアイで開催された。
確か渡航費その他費用を全部ウルグアイが負担するという話だったな。21世紀の南米は政情不安なところも多いが、この時代から20世紀前半くらいまでは結構羽振りが良かったのだろうか。
実際のところ、今から何年かかるかというのは不透明だからなぁ。
ノーベルと協力したし、タタも資金を融通してくれそうだから、金銭面は何とかなりそうだが施設も作らないといけないし、選手の滞在費や滞在場所も用意しなければならない。
ただ、アルゼンチンは遠いんだよなぁ。
アルゼンチンでやると言っても正直、「行こう!」って思う選手がいないだろう。いくら渡航費や滞在費がタダと言っても、選手も生活するわけだからな。
21世紀なら、各国協会なり選手のスポンサーが凄いから問題にならない(もちろん、そうでない競技も数多くある)が、この時代は競技だけで生活できるなんてほぼありえないからなぁ。
1930年のウルグアイのサッカー・ワールドカップにしてもヨーロッパから参加したのは三か国か四か国くらいだったはずだからな。
そういう点ではやっぱり地理的にはどこからも行けるギリシャが望ましいは望ましいよな。
その旨を説明すると、それは分かってくれたようだ。
「まあ、最初というのは難しいとは思っている。ただ、一回で終わりでないのなら、今後アルゼンチンにも機会を与えてほしいと思う」
「うーん、なるほど」
まあ、それは良いかもしれないな。
史実だと第一回がアテネで、第二回がパリだけど、ブエノスアイレスで開催しても良さそうな気はする。
確か1978年にアルゼンチンでサッカー・ワールドカップを開催した時は、軍事政権時代で、反対者の人柱のあるスタジアムでやったなんていうおっかない話もあったらしいが、この時代はそういうことはなさそうだし、な。
「ただ、俺が考えるわけじゃないしね」
というか、今まで何となくいい加減にやっていたが、そろそろきちんとした組織にした方が良いのかもしれないなぁ。
エドワードやアブデュルハミトに対して正式に役員になるかどうか聞いて、日本や他の国でも色々聞いてみるとしようか。
次の日には、ブエノスアイレスの近隣地域であるベルグラーノやフローレス、ロマス、ロサリオといった地域からもチームを作りたい人間達がやってきた。
「既にこれだけチームがあるのなら、地域リーグで試合をすればいいんじゃないのか?」
「いやぁ……」
と、苦笑するラガーマン達。
彼らの多くはイギリスやアイルランドからの移民である。
イギリスやアイルランドでは色々ルールを巡ってうるさい争いがあった。
そうした細かいズレというものがあるらしくて、これを協議したいと思っているが、そうなるとブエノスアイレスが強いから引きずられると思っているらしい。
だから、仲裁者として俺が必要ということらしい。
「いやぁ、そんなことを言われてもなぁ」
俺に細かいルールの調停を任されても困る。
本当にウェッブ・エリスを連れてこれば良かったと思うくらいだ。
結局、非常に妥協的な案を出すことにした。
「それならさ、例えばベルグラーノとフローレスが試合をやるとしてそれぞれのスタジアムで一試合ずつやることにして、フローレスではフローレスルールで、ベルグラーノならベルグラーノルールにしたらどう?」
「その話はありましたが、どうにもいい加減な感じがしますんでねぇ」
「……だったら、イギリスのラグビーユニオンから誰か連れてくるしかないよ」
でも、まだラグビーユニオンはできてもいなかった気がするぞ。
もう好きにすればいいじゃん。
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