第10話 ジャパニーズ・ゴードン②
大坂への外出となると、1人くらい同行者がいた方が良い。
で、同行者となると使いやすいのは沖田だ。「何で年の瀬に大坂に行くのかなぁ」とぼやきつつもすぐに馬を手配してくれた。
伝えに来た伝令も含めて、3人で大坂へと向かう。
大坂は開港対象にはなっていないのだが、前回、エドワードが来たことによって有名無実化しており、一部の施設が特別費用と引き換えに滞在を認めるようになった。
ゴードンもそこに来ているらしい。
京から大坂まで馬を飛ばして二刻。
大坂の旅籠である伊吹屋に着いた。その二階にゴードンが投宿しているという。
ただ、実際には一階にも外国人らしい者が大勢歩いている。どうやらかなりの部隊を連れてきたようだ。
「何か殺伐としているね~」
口調はのんびりとしているが、沖田も若干緊張しているようだ。
私も緊張が高まってくる。ひょっとしたら、イギリス政府が日本に何かをさせようとしていて、いざという時に示威行動をとるために来ているのだろうか。
案内され、二階のゴードンの部屋に向かった。
中に入ると、将軍というよりはビジネスマンという印象の男がいた。一応軍服らしいものは着ているが、厚手であるため防寒具のようにも見える。
「リンスケ・ミヤーチの知り合いかね?」
「そうです」
燐介のことを知っているのか。
まあ、あいつも何度も上海に出入りしていたようだから、ゴードンと知り合いだとしても不思議はないか。
「知っているかもしれないが、清は10月に太平天国を壊滅させた」
「それは何よりです」
私の恋人である善英のことを考えれば、太平天国壊滅がいいことなのかは分からないが、彼らにとっては良いことだろう。
と思ったが、ゴードンはあまり嬉しくないようだ。
「ミッションが終わったのは良いことだが、敵がいなくなったということは軍人がお払い箱になるということだ。我々は解散し、中国人は清の兵士として採用された」
「ほほう……」
中国も日本に負けないくらいには外国が嫌いだ。太平天国を壊滅させるには協力を仰ぐしかなかったが、それが成された今、外国人は見たくないということか。
「それで我々はどうしたものかと香港に問い合わせた。そうすると、日本が必要としているかもしれないからイチタ・ヤマグチかソウジ・オキタを訪ねると良いと言われたので、やってきたというわけだ」
「俺も?」
自分の名前が出て来て沖田が驚いている。
エドワードの知り合いということで序列が高いのだろう。
ともあれ、ゴードンの申し出はかなり大きな話だ。
史実の日本は戊辰戦争や西南戦争を経験する。
これ自体は悲惨な戦いでありマイナスの部分が大きいのだが、一方で戦争経験をする者が増えるというプラスの部分もある。こうした戦いに従軍して経験を積んだものが台湾出兵や日清・日露戦争で活躍したというわけだ。
戊辰戦争や西南戦争がなくなった場合、そうした近代戦の経験を全くできないという問題があったが、常勝軍が訓練をしてくれるとなるとその部分が解決する。
しかし、史実のゴードンは中国での活躍が終わった後、そのままイギリスに戻って、後々アフリカの方に転戦して最後はマフディー運動からハルツームを防ごうとして戦死したはずであるが。
それは変わってしまうということなのだろうか。
あと、清もそんな簡単に常勝軍を解散してしまって良いのだろうか。
確か太平天国がいなくなった後も稔軍を含めて反乱はいたるところで起きていたのではないかと思うのだが、大丈夫なのだろうか?
問いかけてくると、ゴードンは「知ったこっちゃないよ」と肩をすくめた。
「李鴻章が言うには、北京は今後センゲリンチンを中心にして再編すると言っていた」
「そうなのですか」
センゲリンチンはモンゴル系の軍人で19世紀の斜陽の清にあって、まあまあ名将とは言える存在だったらしい。ただ、確かどこかのタイミングで戦死していたと思うのだが。
「で、北京の西太后に聞いたら、リンスケにくれてやれとでも言ったらしい。ロンドンと北京の言うことが合致することはまずないと思っていたが、我々を厄介払いしたいという点では一致したらしい」
「まさか常勝軍が厄介払いなどということは……」
ただ、ゴードンは結構剛直な性格らしいから、敬遠されたというような話も聞いたように思う。
どうしようもない時は頼るしかないけれど、平時は困るというわけか。
うん、ちょっと待てよ。
「西太后がリンスケにくれてやれと言ったということは、西太后は燐介を知っているのですか?」
「もちろん知っている。李鴻章が北京に連れていっていたからな」
「アイヤー……」
あいつ、ヨーロッパではアレクサンドラやウージェニーやエリザヴェートと知り合いで、アジアでは西太后(確か正式名称は慈禧皇太后だが)とも知り合いとは、何気にこの時代の有名女性のほとんどと知り合いになっていないか?
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