第6話 アブデュルハミトの構想
琴さんから厳しい条件を課せられてしまった。
とりあえず1か月ほど考えることにして、今度はロンドンにあるオスマンの大使館に行くことにした。ここに中野竹子がいるはずだから、彼女にも日本の様子を伝えることにしよう。もちろん、その夫であるアブデュルハミトともちょっと話をするつもりだ。
オスマンの大使館に行き、中野竹子に会いたいと言うと比較的すんなり会わせてくれた。
将来的にはトルコに行くのだから、トルコの服装かと思ったら普通の洋装だ。
「宮地様、お久しぶりです」
「あぁ、久しぶり」
畏まられると何となく居心地が悪いが、ひとまず日本の現状を伝えた。
「それは良かったです。今度会津に行くことがあれば、私が遠いところまで行くことになった分、妹と弟には両親をしっかり盛り立てるよう伝えておいてください」
「あ、それよりは手紙でも書いた方が良いんじゃないかな。八重ちゃんに戻ってもらうつもりだから」
ノーベルとの関係とダイナマイトのことについて山口に伝えておくことにした。
大政奉還が済んだのであれば、今度は近代化に向けての色々な工事などを行うことになる。そこにダイナマイトがあればかなり進展は早いはずだ。早めに伝えておいて、ヨーロッパに来る日本人が増えれば、俺にとっても色々有用になる。
琴さんはロンドンで有名人になったから、今のところ特にやることのない山本八重に戻ってもらうことになる。何なら、別の女性陣も留学させても良さそうだし。
竹子は手紙を書くことを約束し、下がっていった。
代わってアブデュルハミトがやってくる。相変わらずの悪そうな目線だ。
「やあ、リンスケ。しばらく見なかったから死んだのかと思ったよ」
「残念ながら生きているよ」
「エドワードと一緒に日本まで行ったらしいじゃないか。僕も連れて行ってくれればよかったのに」
「誘っても来ないくせによく言うよ。ところで」
アブデュルハミトに爆薬に興味があるか尋ねてみた。
「……今後、鉄道工事などを行うに際してかなり便利になると思うぞ?」
「ふむ……」
こいつは悪人面していて、実際にずるがしこい。一応、使えるものであると判断したようだ。
「分かった。伯父にそんなものがあることを投げてみよう。鉄道は今後伸ばしたいと考えているはずだから、需要はあるはずだ」
「そうだろう?」
「地方では反乱が起きそうだという声もある。地方に行って反乱軍をすぐに根絶やしにできるようにしないといけないだろうからな」
「……」
忘れていた。
山口が言うには、こいつは史実ではアルメニア人虐殺とかしたとてつもない強権的な奴だったんだ。
ただまあ、それは史実の形でスルタンになってからの話だ。
今のこいつは顔つきこそ悪いが、まだ悪いことをしたわけではない。
「……そうなるとリンスケも大儲けというわけか?」
「大儲けではないけど、多少の金は入る。オリンビックを開催するに際して、手持ち資金が必要になるかもしれないからな」
「……金があるのなら、故郷で地方領主にでもなった方が良いんじゃないのか?」
いきなり予想外のことを言いだした。
「……イギリスと同じような政治をするのなら、おまえも日本の総理大臣なり何なりになれるだろう? 僕は日本という国のことはよく知らんが、おまえが世界的に見ても只者ではないことは分かっているつもりだ」
「どうしたんだ? おまえにそんな風に言われると気味が悪いんだが?」
「……これから10年から15年くらいで、同い年連中の王が増えることになる。イギリスはエドワード、ロシアはニコライ、トルコは僕だ」
「そんなに早くなれるのか?」
と、聞いたら、こいつニヤッと笑いやがった。
もしかして、その頃には現スルタン・アブデュルアジズを排除するつもりなのではないだろうか?
「……一番厄介なのはやはりロシアだが、ニコライは非常に手ごわい相手だ。ニコライが即位すれば、今ほどダイレクトに圧力をかけるとは思わないが、やはりロシアの目論見は不凍港獲得にある。そうなるとトルコに圧力をかけるか、日本に圧力をかけるか。そういう点で、リンスケが日本の指導者である方がトルコとしては望ましい」
ニコライのロシアが怖いか。
まあ、確かにニコライは中々に優秀な奴だ。少なくともニコライ2世よりはかなり優秀だろう。ロシアに優れた皇帝が就くということは周辺国には脅威ということになるし、オスマンはロシアに散々攻撃されているから神経過敏になるのは仕方がない。
とはいえ、俺が日本にいたら何とかなるものでもないと思うが。まあ、一応俺はニコライの恩人みたいなものだから、俺の話は聞くとは思うが。
「それは大丈夫だよ。日本には山口がいるし」
「エドワードはヤマグチを評価していたな。僕は正直、ほとんど会ってもいないからよく分からないが」
「大丈夫だ。あいつはプロイセンのビスマルクだってビビらせるような奴だから」
その腹いせで俺が脅されたこともあるわけだし。
「それにおまえはオリンピックを馬鹿にするわけだが、万国博覧会もそうだが、こういうのをきっかけにして世界の主要国の面々が顔を合わせて話をすることだってできるわけだから、決して無駄ではないと思うぞ」
「……なるほど。サロンとして利用するというわけか」
アブデュルハミトも納得したようだ。
「……まあ、僕が実権を握るまでまだ数年はある。引き続きオリンピックでもデカい顔ができるよう努力させてもらうとするよ。あと、ダイナマイトなるものについては伯父に勧めてはおく」
「OK、頼んだぞ」
とりあえずトルコにも販路が広がりそうだ。
次はいよいよ本丸・イギリスへのアプローチとなるな。
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