第15話 一太と龍馬②
坂本龍馬は言うまでもなく、幕末の風雲児の1人だ。
この世界では、燐がそれ以上に頑張っていて、千葉佐那との関係でややこしいことになっている。一つ、この世界で龍馬に何をしてもらうか、じっくり話をするのも良いかもしれない。
「電信制度や、この先にある電話などを日ノ本全体にきちんと及ぼすには、幕府の指導では難しいところがあります」
繰り返しになるが、大名の治める国はそれぞれの国として存在している。幕府が外様大名に対して「ああしろ、こうしろ」と命令することには限界がある。
故に、幕府とは別の概念として日本を治めることが予定される朝廷の存在がクローズアップされることになる。朝廷が「こうした方が日本全体の利益になる」と言えば、どこも従うしかなくなるわけだ。
更にそこから幕府が大政奉還をし、廃藩置県などを実現していくことができれば、四民平等からの近代国家への進化が導かれることになる。
「……なるほどぉ。これは一気に進みそうじゃのう……」
龍馬も興味津々といった様子だ。
「イギリスやフランスが彼らの本国を超えて、これほど遠くまで来ているのは何故かというと、彼らは国だけではなく自分達の成功も求めているからです。日本は今のところ、国の指令を受けて国のために海外に行くしかない。国という漠然としたもののために頑張るものと、自分のために頑張るものとでは、どちらが成功するか雲泥の差となります」
「その通りじゃ。商人達が海外にも出て行かないとダメだということじゃな。あぁ、わしも海外に行きたいのぉ」
龍馬は海外へと思いを募らせているようだ。
史実よりも遥かに多くの者が海外に行けるようになっているから、いずれそうした機会もあるだろう。
「ただ、物事にはどうしても反対勢力がついてきます。今の上様の下で進めようとした場合、対立派閥が反対してくる可能性が高い」
「……一橋公か」
「あとは越前の春嶽公も、上様のなすことを良しとは思われないでしょうか」
龍馬がニッと笑った。
「それはわしに任せてくれんか? わしは神戸操練所のことで、春嶽公とは何度も話をしておる。わしが話せば、派閥だの細かい人間関係のことで反対するということはないと思う」
「そうですか?」
確かに龍馬は松平春嶽とは親しいのだった。神戸操練所の準備資金を幕府が十分に用意してくれず、千両も借りたという話がある。その代わりに龍馬も春嶽に有益な情報をもたらしている関係だったはずで、確かに龍馬の言うことなら聞き入れるかもしれない。
龍馬のルートで春嶽を止めてくれるのなら、私は一橋慶喜のみどうにかすれば良いので楽になる。
「それでは、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「任せておけ」
予想外のところから一つ進みそうだ。これだけでも龍馬と話をした価値があったというものだ。
あと、まだ話すことがあるかな。
やはり、千葉佐那のことになるだろうか。せっかくだ、切り出してみよう。
「ところで、坂本先生は千葉道場のお嬢さんと良い関係になっていたと聞きましたが」
龍馬が「あちゃあ」というバツの悪い顔をした。
「それは、そうなのじゃ。だが、今となっては、のう……」
「話しづらい、と?」
それはそうだろう。
龍馬と千葉佐那を比較した場合、家としてどちらが大きいかというと千葉家の方が大きい。坂本家は決して小さな家ではないが、土佐の郷士の家だ。一方、千葉家は江戸でも屈指の剣道道場を持つ家である。
この状況で小さい側の龍馬が「別の女が好きになったんじゃ」とご破談にしてもらう要請するのは何ともバツが悪いはずだ。本人はともかく、千葉家が「冗談じゃない」と激怒すること請け合いである。
「……それでは、坂本先生が春嶽公と話をしてもらうことの埋め合わせというわけではないですが、本気なのでしたら、私の方で千葉家に話を通しておきましょうか?」
「本当か?」
龍馬がぐっと身を乗り出してきた。
「はい。もっとも、これは私というより宮地燐介の方が大きいのですが」
「燐介? そういえば、昔、燐介も千葉道場に少しだけおったのう。というより、わしが無理矢理連れてきたんじゃった」
「はい。ですので、燐介も千葉道場には色々顔が利きますし、適当な弟分ということでお嬢さんにも可愛がられているところもありますので」
これはまあ、嘘ではないはずだ。
あの2人、一応相思相愛ぽいが、対等というよりは、完全に千葉佐那に敷かれている感じだし。
「そうか。確かに佐那には燐介の方が良いかもしれん。そうじゃのう、あいつはいい奴じゃ。佐那を幸せにできるのはあいつの方じゃ。山口先生、そういう方向で……うん?」
龍馬はそこで首を傾げた。
「しかし、山口先生と燐介は一緒にアメリカやイギリスを回ったとは聞いておったが、そこまで仲が良かったのか? 意外じゃのう」
「えぇ、まあ……」
しまった。
私と燐は生まれも違うし、海外留学こそ一緒にしたが、ずっと行動を共にしているわけでもない。
何でそこまで知っているのか、怪しまれてしまったようだ。
「……見知らぬ国に少ない人数でいると、話でもするしかなく、色々なことを知ることになるのですよ」
「そうなのか……」
龍馬は首を傾げていたが、ひとまずは自分の難題を解決してもらうことを優先したようだ。
「それでは、山口先生、お願いします」
と、頭を下げてきた。
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