第11話 一太の助言を受け、加賀は改革す
「イギリスの皇太子が日ノ本に来たことはご存じでしょうか?」
まず、エドワードの来日について聞いてみることにした。
「噂としては聞いている。そんな遠いところから、やってくるものかと疑ってはいたが」
「某はそこに同道しておりました。江戸、京、長州、薩摩に滞在しておりました。これが意味することがお分かりでしょうか?」
「加賀は物の数ではない、ということか」
「そこまでは申し上げませぬが……」
江戸幕府、の中では加賀百万石というのは栄光の象徴のようなものだ。
余光を抱いていると言っても過言ではない。
しかし、近代化という観点では加賀……金沢にはそれほどの魅力はない。良くも悪くも前田家は幕府の二番手という強い立場であり、そこに安穏とし過ぎているところがある。洋学に関心のない藩主斉泰が長年にわたって藩政を牛耳っていることもあり、近代化にあたって魅力的な人材がほとんどいない。
加賀の立場を強くするには、ここをどうにかする必要がある。
「幕府や朝廷が今後どのように変わるかまでは分かりませぬが、今後洋学を無視したままであれば、加賀が置いていかれる可能性は大いにあると思います」
「……それは分かった。だが、どうすれば良いと思う?」
「資金に余裕があるのであれば、イギリスやフランスに多くの人を派遣すべきでございましょう」
「……しかし、幕府がどういうか」
「そこは某が何とかいたしましょう」
「ふむ……」
本多が考える。
「確かに洋学を理解しているか否かで、今後が大きく変わることは分かる。一太が協力してくれると言うのであれば、大規模な洋行団を結成しよう。わしには息子がおらぬゆえ、一族の
加賀全体が変革しなければならないが、変革させすぎると本多政均の立場が危うくなる。だから、本多家の親戚からも洋行させたいということだろう。
「正しい措置であるかと思います」
続いて、日本全体のことに話が移った。
「……中国は英吉利にやられたと聞いている。日本はどうなるのであろうか?」
「攘夷運動を鎮めることができれば、中国と同じことにはならないと思います」
この年の終わりには、太平天国の乱も終結することになる。
ただ、イギリスは当面は中国のことに追われるし、燐の存在でエドワードが日本を気に入っているという事実もある。
日本が余程変なことをしない限り、イギリスの側から「日本を倒そう」ということにはならないはずだ。生麦事件を起こした薩摩すら、大きな問題にはなっていない。
「いずれ洋行した者に聞けば分かることと思いますが、現時点では日ノ本とイギリスの間には大きな差がございます。本気で戦えばとても勝つことはできません」
軍事力の説明だけでなく、電信制度や電話といった技術についても説明をした。
「某は今回、3日ほどかけて京からここ金沢まで参りました。しかし、電信を引くことができれば、今回の如き知らせは半日もかからずに送ることができるのでございます。これが戦などをするうえでどれだけ大きなことかはお分かりいただけるでありましょう?」
「そうしたものを江戸や京に置くというわけか。ここ金沢にも置くのであろうか?」
「もちろん、いずれは置くことになると思いますが」
史実の加賀は優先順位としてはそこまで高いものではなかったはずだ。
「……そこから先はわしらの努力次第というわけだな」
「左様でございます」
本多の危機感はかなりのものだ。その日のうちに藩主である斉泰に会いに行き、洋行活動への許可を求めたようだ。
斉泰も本多の提案に従うことにしたようで、すぐに計画をまとめたようだ。
そして、本多政均の使者が、夜、私と沖田が金沢の料亭で舌鼓を打っているところに入ってきた。
ここにいるということは伝えていないのだが、50両渡したからそれなりの旅籠や料亭に行くだろうと連絡していたらしい。
そういう点では、私達はまんまと嵌ってしまったことにはなる。
「今後半年以内に、許されるなら200人ほど送りたい旨を幕府に申し伝えてくだされ」
と、本多政均の署名が入った書状を手渡される。
200人!?
幕府が生麦事件の賠償金を元手に長州や薩摩から送るのが200人だというのに、加賀だけで同じだけの人数を送るつもりとは。
また極端な……。と、思ったが、史実でも尊王攘夷派を全滅させるなど、かなり極端な動きをしてしまった加賀藩だ。方向が変われば、こういう形になるのかもしれない。
前田家の動きは、遅いといえば遅いのだろう。
しかし、例えば佐賀と比べて、前田の国力は単純に倍を超えている。
本気になれば、多少の遅れは国力の差で取り返すことができるだろう。
仮に加賀が佐賀のように洋化に取り組むことができれば、多くの人材を出すことになるだろうし、日本の近代化も全く違うものになるはずだ。
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