第8話 改・池田屋事件③(沖田総司視点)
逃げようとする奴を全員一発で仕留めた俺。
俺ってやっぱり凄いんだなぁ、銃があれば無敵だなぁと自信満々に戻るところで、先程落ちた奴を収容した奴が声を出した。
「こいつは、河上彦斎!」
河上彦斎?
そういえば、昔、山口さんが言っていたな、凄腕の剣士で清河八郎の片腕のような存在だって。
でも、清河八郎は今や山口さんと口喧嘩で負けて一緒に仕事しているのに、河上は従わなかったのかな。
とりあえず戸板に載せられる河上のところに近づいてみた。
俺もそんなに大きくないけど、河上は俺より小柄だ。パッと見た感じだと女に見えるかもしれない。そんな河上が俺を見て睨みつけてくる。
「この卑怯者が……」
まあ、確かに剣で戦っている相手を銃で撃ったんだから卑怯は卑怯だ。
でも、一々気にしていられないのもある。
「でも、俺が剣であんたより弱かったなら、剣で戦うのはあんたが卑怯ってことにならない? 俺達は試合をしていたわけじゃないんだし、お互いがやりたいやり方で行くのが普通でしょ? それより……」
こいつに卑怯と言われるのは気にしないけど、それよりどうして清河と袂を分かったのかが気になる。
「あんたは清河先生のところにいたんじゃないの?」
「清河は夷狄と交わる輩に身を任せた。裏切者だ」
「でも、清河先生は帝の下で働いているよ? 尊王の覚悟は果たしているけど、帝も間違っているというわけ?」
この質問で河上が困るかなと思ったが、奴は全く動じない。
「陛下の側近は国を圧する奸物に満ちている。このままでは国が大変なことになる。今に大変なことになるということを分かっておられぬ」
おぉ、帝が間違っていると認めたよ。しかも、以前は一緒に行動していた清河を奸物とまで言うとは。
でも、筋は通っているけれど、賛同はしがたいかな。
「帝が間違っているのなら、アメリカのように国王を廃する手もあるし、イギリスみたいに議会を強くすべきだったんじゃないの? 今の状況が間違っているのなら、むしろ答えは外国にあるわけで、あんたはもっと外国を知るべきだったんだよ」
「……」
これでさすがに大人しくなった。俺を憎しみに満ちた視線で睨みつけて、それで終わりだ。
恨みはないけど、死刑になるんだろうなぁ。
逃がしてしまえば、山口さんとか清河を襲ったかもしれないし、これで良かったのだろう。
池田屋に入ってからほぼ一刻が経過した。
抵抗する動きを見せたのは河上彦斎が最後だったようで、他は全員斬るか捕縛できたようだ。
近藤さんが近づいてきた。
「総司、おまえさんのおかげで大分楽になった。この度の殊勲第一はおまえだ」
近藤さんが面と向かって褒めてきたから、ちょっとびっくりした。
試衛館にいた頃は「総司ならこのくらいできて当たり前だ」で、褒めることなんて全くなかったからね。
もちろん、試衛館では命のやり取りはなかった。今回のような戦闘とは全く次元の違う世界なんだけど、ね。
「そう?」
「あぁ、会津様にも伝えたいと思う」
「ということは、燐介が言うMVPってやつだね」
「え、えむぶいぴー?」
「そう。一番大活躍した人をMVPって言うんだって」
「海外ではそのように言うのか。それは俺には分からんから、会津様に言ってくれ」
大分呆れたような感じだ。
俺もちょっと調子に乗り過ぎたかもしれない。
「……死者は出ていないよね?」
藤堂君が負傷して運ばれていたのは見たけど、それ以外に誰か死んだ人はいないか。
俺はそのことが気になったけれど、近藤さんは淡々とした様子で答えた。
「池田屋ではいなかった。ただ、近江屋に踏み込んだ芹沢先生達は敵が弾薬を爆破させて死んでしまったらしい」
「えぇっ、そうなの?」
池田屋に向かったのは全員無事だったのに、近江屋に行った連中は全滅したという。俺は一瞬、近藤さんと土方さんが、邪魔な芹沢一派を一掃したんじゃないかと邪推してしまったが、そういうことでもなかったらしい。
何でも、正面から突入したところ、二階から逃げ出した奴らが庭に回り込んで、大量に置いてあった爆薬に火をつけたらしい。それで敵・味方が全員ジ・エンドとなったらしい。
「そうなんだ……」
「そういう点でも総司が銃で遠巻きに仕留めてくれたのは大きかった」
「池田屋の庭にも爆薬があったの?」
「いや、庭にはなかったが、倉庫にはあった」
「……」
なるほど、俺が逃げようという奴を仕留めたのは思った以上に大きな効果があったんだ。庭まで行って火をつければドカンとなったわけだから、ね。
こうなると、ますます俺がMVPということになりそうだな。
あと、山口さんがビビッていたのはこういう事態を恐れていたのかな。
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