第7話 改・池田屋事件②(沖田総司視点)

 夕刻、俺達は土方さんの指示を受けて池田屋へと向かった。


 ちょっと気になったのは山口さんの様子だ。


 いつもは「自分は何でも知っている」という落ち着いた様子だが、さっきは分かってはいるけど不安そうな様子だった。


 ま、尊王攘夷派が大挙して最後に暴れようとしているのだ。不安になって当然ではあるけど、な。



 土方さんの拷問はもう恐ろしいもので、相手はあらかた自白してしまった。何でも20人くらいの尊攘派が三条小橋の旅籠・池田屋に集結しているらしい。どうやら持ち主自体も尊攘派の息がかかっているようで、弾薬などもあるという。


「そのうえで、祇園祭に合わせて御所に襲撃をかけて天皇を拉致して、長州に連れていき、毛利敬親を再度尊攘派として立たせる」


 そういう計画らしい。


 長州は少し前に燐介と山口さん、あとはエドワード皇太子が話をしたことで尊攘派の旗を下ろして、開国派になったという。尊攘派としては捨てられた形になったわけだから、帝を無理やり連れてきて再度尊攘派としての責任を取らせるつもりらしい。


 追い詰められた連中の考えそうなことだけど、迷惑な話だ。



 ただ、弾薬を運び込んでいるというのが厄介だ。


 斎藤さん、永倉さん、藤堂君達が先頭に切り込む予定だが、剣では銃に勝てない。


 相手が迎撃態勢を整える前に、とにかく一気に斬りに行くしかない。


 幸いにして、土方さんも俺と同じ考えのようで、「とにかく全員切り捨てるしかない」と指示を出した。



 今の追い詰められた尊攘派は窮鼠のようなものだ。迂闊に触れると猫も噛みかねない。


 ただ、その全員が池田屋に滞在しているのかどうかは分からない。


 だから、会津と桑名、見廻組にも応援を頼んで、他の場所も当たってもらうことにしたらしい。これだけの人が探せば問題ないだろう。


「とはいえ、これだけの大捕り者だ。俺達が一番乗りして手柄を立てよう。大きな顔をしている見廻組にほえ面かかせようぜ」


 土方さんの言う通り、旗本出身の見廻組は何とも偉そうだ。


 鼻を明かしてやりたいと考えているのは、少なくないだろう。



 夜半、俺達は持ち場について池田屋の様子を探る。


 できれば宴会でもやってくれていれば嬉しいのだが、そうした気配はない。


 飛び込むしかないようだ。


 池田屋の間口はそう広くないから、押し込めるのは2人、2列で入るとして4人くらいだ。


 先頭を切るのは永倉さんと藤堂君になった。


 次に斎藤さんと近藤さんが続く。


 俺は勝手口近辺に銃を持って構えて、逃げそうな奴を撃つことにした。一緒についているのは原田君と島田君だ。この2人が斬りかかって、俺が後ろから撃つ。


 かつての試衛館最強剣士としては、後方から銃で撃つのはどうかと思うけど、周りに剣の使い手がいるのだし、俺は銃で戦うのが良いだろう。



 亥の刻になった。入口に永倉さんと藤堂君が入っていく時間だ。


 たちまち、建物の中から怒号が巻き起こった。


 二階の格子窓に現れる者がいたから、原田君と島田君に指示を出した。2人が「何をしている!?」と声をあげると、「ここにも幕府の犬が!」とののしり声をあげた。


 敵だと確定したので、一発撃ち込んだ。


 肩のあたりに見事的中!


 相手はグラッと崩れて、そのまま部屋に倒れ込んだ。


 もう使い物にならないはずだ。


「外に狙撃兵がいるぞ!」


 叫び声が聞こえる。


 狙撃兵、良い響きだね。


 これで相手も迂闊に逃げられなくなったはずだ。



 しばらくすると応援もやってきた。


 彼らが入っていったかわりに永倉さんがこっちに回ってきた。


「休憩ですか?」


「あぁ、最初に踏み込んだからさすがに疲れた」


「こちらの被害はどうです?」


「藤堂君が額を負傷して運ばれた」


「藤堂君が?」


 結構な使い手だと思っていたから、驚いた。


 だけど、建物の中は狭い。刀を振り回していると、場合によっては自分に当たるかもしれないし、小太刀を使うとなるとどうしても接近戦になって危険になる。


 屋内での戦いは難しいよね。



 裏の二階から逃げようとする連中は全部撃ち落とした。


 ただ、見えない角度から屋根に上って逃げている連中もいるらしい。そういう面々については何とか追いかけてもらうしかない。


 段々静かになってきた。


 そろそろ入って半刻近くになる。もう全員が斬られるか捕縛されたんじゃないかな。



 俺は一瞬そう油断したけれど、中でもそう思った者がいたのかもしれない。


 突然、「うわあ!」という悲鳴があがって、二階の窓に姿を見せる者がいた。


 小柄な子供みたいな奴が刀を持っていた。どこかに隠れていて、いきなり斬りかかって逃げようとしているのかもしれない。


 それは良い考えだったけれど、俺がいる方向に逃げようとしたのが運の尽きだったな。


 銃を構えて、バン!



「うわぁ!」


 見事に太ももに命中した。


 これであいつはもう満足に戦えないし、逃げることもできないだろう。


 俺の銃から逃げられる奴はいないのさ。

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