第2話 一太、ビルマ皇太子の警護策を練る

 今後、電信制度の普及を図っていくことで、尊攘派と幕府側との接点を築けそうだ。


 という点では、燐がエドワードとビルマを巻き込んで行おうとしていることは価値がある。


 一方で、ビルマの改革路線について気になることも書いている。



『現在、カナウンという皇太子が頑張っているが、多分こいつが不慮の死を遂げるんじゃないかと思っている』



 さすがにビルマのことについてまで詳しいことは分からない。


 ビルマが近代化を目指していればイギリスの植民地にならなかったかどうかも何とも言えない。ビルマは日本とは異なる。アジア経営における重要拠点インドとシンガポールのちょうど中間にあるため、自分達のものにしておきたいという方針が出て来ても不思議ではない。


 ただ、国内が混乱していれば、より植民地にしようとする需要が強まるのも確かだ。


 このカナウンという人物が死ぬことで、ビルマがより厳しい立場になるということは大いにありうる。



 とはいえ、日本から誰か救援に送るというのもどうなのだろうか?


 色々、問題があるような気がするが、イギリス皇太子エドワードの了承も受けているとでも言えば納得されるのだろうか?


 だとしても、誰を送るべきなのか。


 日本にしても、これから近代化のために有為な人材は1人でも欲しいところだ。


 日本では使わないが、ビルマで役に立つなんて、そんな都合のいい人物などいるはずが……


 いや、いるか。



 電信について近いうちに説明すると徳大寺と三条に言い、屋敷を出た。


 そのまま、薩摩藩の京屋敷へと向かう。


 エドワードの来訪を受けたことで、薩摩の情報収集への意欲も更に増している。そのため、京の上屋敷に常時大久保が滞在するようになっている。


 私はその大久保を尋ねた。


「大久保どん」


「おぉ、山口どんではないか。どうしたのだ?」


「西郷どんは元気かね?」


「もちろん達者にしておると思うが、どうした?」


「西郷どんの力が必要な場所がありそうだ。一度上京するよう頼んでもらえなんだろうか?」


「何と!?」


 大久保が飛び上がった。



 この世界では幕末の倒幕運動がなくなりそうだ。


 そうなると西郷隆盛の役目がなくなってしまう。役目がなくなる場合、島津久光に嫌われている彼は、思うように力を発揮できない。


 だから、燐に対して「イギリスに連れていってくれないか?」と持ち掛けていたが、これは薩摩の抜け駆けを許すことになるから、伊藤と井上が反対した。


 結果、西郷は今も悶々とした日々を過ごしているはずだ。


 そんな西郷だが、英語はできるし、人を導く才能もある。


 実際、西南戦争で戦死せずに、どこか別の国に渡ったなどという伝説も残されているほどだ。


 ならば、西郷をビルマに向かわせ、カナウンと会わせてみるのはどうだろうか。


 ビルマであれば、他の藩も文句を言わないだろうし、今のビルマは史実以上に日本にメリットをもたらしそうである。


 西郷にとってもやりがいのある仕事になるだろう。



「分かった。すぐに呼んでくる。船をやるうえ、数日で着くことと思う」


「そうしてもらえると有難い」


 大久保は西郷の親友であるから、当然、西郷に将来の芽が出るのはうれしいだろうし、私が彼のための話を持ってきたということは、それが薩摩や日本のためになることだと言うことも分かったのだろう。


「ところで山口どん、一体どのようなことなのだ?」


「……まだ、確定した話ではないが」


 私は大久保にビルマのことを説明した。当然、電信についても説明する。


「電信……そんなとんでもないものが、ヨーロッパにはあるのか」


「あぁ。日本国内では10日かかるようなものを、イギリスは1日かけずに知ることができる。もちろん、知ることができる者は限られているが」


「長崎に通すとなると、薩摩にも通してもらえるのだろうか?」


「いずれは全国に通すことになると思うが、順番については今後の話し合いにもよるだろう。まずは江戸、次に京、そのうえで、となると思う」


「……それはまあ仕方ないのだろうが」


「仮に西郷どんがビルマの電信制度を守ることになれば、イギリス、ビルマにとっても有意義なことになる。今後のことに繋がっていくだろう。ただ、問題は西郷どんは英語が出来るのだろうが、他の者はどうだろうか?」


 理想の展開としては、西郷の子飼い……例えば桐野利秋なども一緒に連れていくということだが、彼らの英語能力が気になるところだ。西郷しかできないとなると、現地で色々問題を起こすかもしれない。


「任せておけ。半年の間に教え込んでみせる」


「半年?」


「うむ。吉之助の了承をとった後、大殿の許可を貰う。更に幕府に報告し、朝廷にも許可をもらう。そうなると半年ほどはかかるだろう?」


「確かにそうだ」


「それだけあれば、覚えられるはずだ」



 ……本当か?


 現代日本では数年教えても、全然できないのだが。


 ただ、日本の学生と違って、この時代はできるかできないかが本当に死活問題だからな。


 下手すると家族の生活にもかかってくる。


 覚悟が違うのだろうし、覚えられるのかもしれないな。

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