第12話 アジア電信構想
その後、ビルマに一週間ほど滞在して、俺たちなりに分かることはカナウンに伝えた。その後、国王のミンドンとも会って、エドワードへの親書も受け取ったので俺達はカルカッタに戻ることにした。
カルカッタの総督府に行くと、エドワードが出迎えてくれた。
「ようリンスケ。おまえに会わせたい人物がいる」
何やら楽しそうな顔で伝えてきた。一般的に、何か企んでいるような顔だ。
一体誰だろう?
こいつも性格が悪いところがあるからな。
まさかサプライズで佐那が来ているとか、そういうことはないよな?
「殿下、あまりもったいぶられても困るのですが」
と、声をかけてきたのは40過ぎくらいだろう。顎髭はないのだが、もみあげと口髭をやたらと伸ばしている、中々変わった髭をした男だ。
「むむっ!?」
マルクスが反応した。確かにこの男の髭はちょっとドイツ人ぽい気がする。
「貴様は、もしやドイツ人か?」
「そういう貴方もドイツ人ですか?」
それで意気投合したのだろう。2人はドイツ語で話をしだした。
さすがにドイツ語で話をされるとさっぱり分からんが、まあ、マルクスもたまには故郷の言葉を使いたいときもあるのだろう。
ただし、俺に紹介するつもりだったのに、マルクスとずっと話をしているのでエドワードが困っている。
結局、パンパンと手を叩いて、マルクスとの会話を打ち切らせて、紹介をする。
「こいつはポール・ロイターと言って、電信業の会社を経営している男だ」
電信業?
ロイター?
って、21世紀にも存在しているロイター通信のことなのだろうか?
どうやら、限りなくそれに近いようだ。
ロイターはこれまでイギリスやアイルランドの電信工事を行っていたようで、電信事業についてかなり詳しい。取り出した資料には、地図に電信ルートが書かれてあるし、それぞれの国との間に締結した契約内容なども把握しているようだ。
当然、イギリスにとってもっとも重要な場所である。インドについても把握している。
「現在、ロンドンからカルカッタまでは、陸上で何か所かを経由して電信が繋がる状態でございますが……」
そうだったのか。
アメリカとの電信が、まだまだ進捗中というのに、インドとの電信ルートはもう確保されているとは。インドの重要性を改めて感じる。
「現在、海底ケーブルを紅海に通して、ボンベイやカルカッタまで直接繋げることを計画しております」
「ほぉぉ」
それは凄いな。
「おまえがこの前紹介してくれたムンバイのタタ親子も協力してくれて、工事全般を執り行うことにしたようだ」
おぉぉ、ロイターとタタのタッグか。
それは頼りになりそうだと思っていると、エドワードが驚くべきことを言いだした。
「どうせだったら、日本までつなげてみないか?」
「何!?」
日本まで電信を?
それはすごいアイデアだ。日本と海外との電信網が江戸時代の段階で実現すれば、近代化に向けた動きは間違いなく加速する。
仮に中継点を含むやり方でも、日本からカルカッタ経由でロンドンまで通信が繋がれば、俺も日本の情報を早めにキャッチできて色々動きやすくなる。
問題は繋げるための方法だが……。
「日本から誰かホンコンに派遣させて、ホンコン、シャンハイ、ナガサキを結びたいと思うんだ。どうだ?」
「俺は賛成だ」
ただ、誰が良いのかな?
史実で実業家というと、岩崎弥太郎とか渋沢栄一になるのかな。あるいは前島密?
まあいいや、人選は山口に任せよう。
「ホンコンからは海底ケーブルでシンガポールを経てカルカッタまで繋がれば解決だ。ただ、先に地上にケーブルを置きたいところではあるな」
「地上で繋げるとなると、香港からベトナムを経由して、タイ、ビルマ?」
おっ、これはいいんじゃないか?
ビルマ国内に電信ケーブルを設置する必要があって、ビルマが協力してくれればエドワードの心証も良くなるし、地域の安定化にも貢献しそうに思える。
「エドワード、それならば……」
と、俺が話すより、近くにいた別の武官が口を開いた。
「ビルマというと、インドとの国境近くにあるラカウン地方でムスリム共が反乱を企てているという話があります。ビルマからも反乱分子が流れていると言います」
しまった、先に反乱の話をされてしまった。
「ビルマは小さいですし、インドのついでに占領してしまっても良いのではないですか?」
しかも、ビルマ占領の話までされてしまった。
これはまずい。擁護してやらないと。
「ただ、ビルマの皇太子のカナウンは結構できる人物だよ? あいつなら、電信の意義を理解して協力してくれるはずだ」
「確かにカナウン殿は話が分かりますが、それ以外は物の見えない連中しかおりません。1人でできることにも限界がありますし、早晩ビルマは立ちいかなくなると思いますが」
「むむむ……」
それを言われると辛いんだよなぁ。
実際、イギリスに占領されるわけだしなぁ。
ただ、これを何とかひっくり返せば、日本-ビルマ-インドというルートが繋がる。
難しい話になるだろうが、どうにかビルマとイギリスの破局を避ける方向に進みたいものだ。
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