第4話 微妙王族とIOC
多様性……というか、何でもアリなインドにおいて、ヒンドゥー改革派の人間と会ったりしているうちに、ムガル帝国皇室末裔の話が浮上してきた。
何だかんだと言って、皇室の末裔というのはそれなりに通用力がある。
史実における最後のムガル皇帝はバハードゥル・シャー2世である。
彼は大反乱の後にビルマに追放されたが、その時既に80歳を超えていた。
さすがにその年齢で追放されると再起のための意欲はない。2年前に病死してしまったのだという。
バハードゥル・シャーには多くの息子がいたが、多くは早逝してしまったらしく、壮年の息子はいない。20代前半の息子2人が残っているのだという。
皇帝の息子という肩書があり、かつ若いというのは悪くない素質のように見える。
問題は、イギリス側がどう評価しているか、だろうか。
夕方、実務的な協議で別行動をとっていたエドワードと合流して、その話題を出してみた。
「俺はそういうのは分からないなぁ」
というエドワードの評価は予想通りだ。
カルカッタの代表側は、というと。
「インドに戻すのは色々問題がありますね」
総合的にはそういう評価だ。
やはり、大反乱において、反乱軍側についてしまったことがマイナスに響いているようだ。
「そのうえ……」
アフガーニーが言うには、財産の類もかなり没収されてしまったそうで、例えば私財をなげうって何か新しい事業を行うことは無理なのだという。
「だから、オリンピックなるものに参加させることはできないだろうか?」
選手として、もしくは理事としてということのようだ。
オスマン帝国のアブドュルハミトが参加しているから、それに倣ったということだろう。
だが、ちょっと待ってほしい。
山口は幕末を変えて負け組になった士族の再就職先として、オリンピック活動をあげていた。
今、アフガーニーもムガル皇族の末裔が行く先としてオリンピック活動を考えているが、そういう再チャレンジの場として考えてもらったら困るのだが……
俺は天下り先を作りたくてオリンピックをやりたいわけではない。
世界の動静を先取りしたくて活動しているのだから。
エドワードがインド総督府の面々に尋ねた。
「インドに戻るな、ということだが、インド以外のところで活動するのなら構わんのか? 例えばギリシャとか」
発言からして、エドワードはムガル帝室をオリンピック委員に入れるつもり満々のようだ。
だから、「そういうつもりはないのだが」と俺が答えるより早く、総督府の役人が答えた。
「まあ、インドに立ち寄らないのならば、そういう活動をしても構わないのではないでしょうか?」
自分達に関係ないなら別にいいよ、殿下の受けも取れるし。
そんな雰囲気であっさり承諾してきた。
「そういうことだから、世話してやれよ」
と、エドワードに諭される。
しかし、そうなるとアブドュルハミトも含めて、本国で微妙な王族の避難場所のような扱いになりかねんのだが。
「その方が良いんじゃないか? あの人もうまくいかないようなら匿えるだろ?」
「あの人?」
「オーストリア皇帝の弟マクシミリアン大公だよ」
マクシミリアン大公!
そういえば、色々生存ルートを模索していたが、ギリシャ王にはデンマーク王子がついてゲオルギオス1世になってしまったし、このままだと史実通りメキシコ皇帝になって、ベニート・フアレスに負けて処刑される運命しかないわけか。
そんなマクシミリアンに「オリンピック委員という世界的な役割があるぞ」と勧めて亡命させようというわけか。
でも、マクシミリアンはともかく皇后の地位にこだわる妻のシャルロッテが聞き入れてくれるのかな? あの女に嫌われるのは勘弁してほしいのだが。
エドワードが更に追撃弾を打ってきた。
「おまえの国、日本でも天皇が退位するかもしれないという話だろ? おまえが言うにはオリンピックは平和な活動だし、入れてもいいんじゃないのか?」
孝明天皇までIOC委員に!?
いや、まあ、確かに実際の日本でも高円宮はサッカーに深く関わっていて、高円宮妃は総裁務めたり、国内のスポーツ大会にもしばしば参加しているから、孝明天皇が退位した後に参加するというのも有りといえば有りなのかもしれないが……
「むしろ、そういう面々が大勢いた方が世界的にも箔がついて良いと思うんだが?」
ぐぬう。
東京オリンピックが新型コロナウィルスで延期するかもという話をしていた時、色々尊大なことを言っていた会長は、名前も知らないような貴族の末裔だったはずだ。
そういう面々が言うよりは、「IOCの会長って、ムガル皇帝の末裔なんだって」、「オスマンの子孫もいるらしい」、「日本人代表は孝明天皇の落胤だとか」みたいな話の方が夢があるのだろうか?
しかし、そんな面々ばかりになると、俺が完全に浮いてしまう……というか、追い出されそうな気がするんだが。
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