第11話 一太、清河八郎と再戦する④
2月12日、近藤からの手紙が届いた。
前日の時点で美濃の中津川にいたらしい。
ということはあと3日ほどで京都に着くことになる。
「迎えに行くの?」
沖田が尋ねてきた。
私は清河と共に浪士組の責任者ではある。
だから、挨拶に行くべきというのは確かだ。ただ、のこのこ出て行くと清河にばっさりとやられてしまう可能性もある。
「じゃあ、行かないわけ?」
「そういうわけにもいかないのが辛いところだ」
清河に勝った場合、浪士組は私の所属となる。
だが、私が清河から逃げて挨拶にも行かなかったとなると、近藤達はともかく多くの者はこう考えるだろう。「清河を恐れていた山口の下につくのは馬鹿馬鹿しい」と。
「よし、俺が銃を持って、刀を抜きそうな奴は先制射撃することにするよ」
「頼む」
と答えたものの、剣ではなく、銃を持っていくという沖田には違和感がある。
ともあれ、到着予定日の15日、私は沖田と永倉、島田を連れて清河達の到着地点となる京都・壬生寺の方へと向かった。
「大丈夫だよー」
先に沖田が壬生寺周囲を調べて、怪しいものがないことを確認した。
そのうえで、松平容保から頼んだ数人の兵士を茂みなどに潜ませる。同時に壬生寺の住職などの関係者に話をし、清河達に平穏に活動させるよう強く要請した。
昼過ぎ、清河一行の姿が見えてきた。
人数はざっと300人。史実では230人程度だったというからそれより集めたことになる。
清河は何人かの者と並んで先頭を歩いていた。
私が住職とともに姿を見せると、「おっ」と驚いたような顔をした。
ほぼ同時に住職が話しかける。
「ここより先では刃傷沙汰は無用にお願いしますぞ」
「……よろしいでしょう」
清河は一瞬の思案の後、右手で後続を制すると一人、寺の方に向かってきた。
このあたりは何とも大胆だ。剣術の腕に自信があるということなのだろう。
ただ、同じくらい剣術に自信があったはずの桂小五郎や坂本龍馬はここまで大胆ではなかった。結局は性格の違いだろうか。
「驚きましたね。まさか山口先生がここにいたとは……。京の滞在場所までは知らせていなかったはずなのに?」
清河は面白そうな様子で後ろを見た。
恐らく、試衛館の面々が通じていることは分かっているだろうが、この場でそれを口にすることはない。
「……まあ良いでしょう。出迎えの儀、感謝いたします」
「随分と大勢呼んだようですね?」
繰り返しになるが、史実では230人程度、それが300人くらいいる。
それだけ危機感をもって、今回の上洛に臨んでいることを示していた。
「何分、ここ1年、思うようにいっておりませんので、ね。山口先生の影響で、江戸での活動を縮小せざるをえなくなり、おまけに
お蓮というのは清河八郎の妻のことだ。
2年ほど前から、清河は倒幕運動や外国人殺害の件で幕府に狙われていたという。
その過程で妻のお蓮も牢に入れられてしまい、その中で体調を崩して病死してしまったという。
清河としてみると、妻の死という重荷を背負って、自らの使命に邁進しているということなのだろう。
もっとも、それなら、別の者の家族を殊更に犠牲にして良いというわけでもない。
彼がその理屈で横浜の外国人を襲いまくれば、私の妻になる予定の善英が斬られてしまうことになりかねない。
「細君の件は残念でございました。お見舞い申し上げます」
とはいえ、最低限の礼は示しておいた方が良いだろう。
「……有難くお受けいたしましょう。それより、我々は明日、御所へと向かい、帝に建白書を捧げるつもりでおります。この件は既に先生にお知らせしていたと思いますが」
「はい。聞いております」
史実では、この建白書を提出して、朝廷の直属とした。
そのうえで清河は浪士組を尊王攘夷運動のために使おうとし、実際かなりの者が従おうとしたようだが、近藤や土方達が離脱したのと、幕府からの帰国命令が執拗に来たために目的達成はならなかった。
「その後、
「ほう……」
春興殿というのは、内裏の一つであり、武具などを管理している場所だという。
武士階級にいる私と清河が対峙するには、うってつけの場所と言えるのかもしれない。
「そこで、改めてこの国の今後を話したいと思いますが、如何?」
鋭い視線を向けてきたのを、気持ちのうえでは流す。
微笑を浮かべて、澄まして応対できれば良いのだが、そこまでかっこいいことは出来ない。
それでも、比較的余裕を持って答えることはできた。
「……承りました。国事について改めて語るといたしましょう」
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