第9話 燐介、高杉と伊藤に啖呵を切る②

「燐介、おまえ、何か変だぞ」


 と総司が突っ込んでくるが、俺は完全に「遠山の金さん」のノリで進み出る。


「やいやいやい、こいつは沖田総司というが、この名前だって聞いたことがあるだろう!?」


 何で総司と松陰が知り合いなんだというツッコミどころはあるのだが、事実なんだから仕方がない。


 高杉が愕然と総司を見る。


「松陰先生は行動の人だ。だから、行動をするということ自体は悪くない。しかぁし! 無暗に行動だけすれば良いというものでもない! 松陰先生がアメリカやイギリスに行ったというのに、何故、おまえ達は続こうとしない!? 松陰先生は『アメリカやイギリスに行ってはいけない』とでも言ったのか? そうじゃないよな!」


「しかし、わしらがどうすればイギリスに行けるのじゃ?」


 一人がムッとした顔で文句を言ってきた。


「どうすればいける? 馬鹿野郎! 俺達と松陰先生がどうやって行ったと思っているんだ? 黒船に自ら乗り込んでアメリカの連中と交渉したんだ!」


 総司が「そういえば、あの時、燐介が色々やっていたよなぁ」と懐かしむように振り返っている。変な事を言われると困るから、話を先に進めよう。


「当時はそれしかなかったが、今はもっと方法がある! お前達が焼こうとしていた横浜で、イギリス人に言えば連れていってくれるかもしれないだろ! これだけ人数が揃っていながら、どうして一人とて松陰先生の後を追おうとしない? お前達は松陰先生から何を教わったんだ!?」


 全員が顔を見合わせて、「そういえば」とつぶやいている。


 まあ、仕方ないと言えば仕方ない。言っては何だが、弟子達と松陰では無軌道ぶりが違う。高杉も中々の猛者ではあるが、松陰程の奇天烈さを求めるのは無理だ。


 と、高杉が正座のまま一歩前に出た。


「わしは今回の計画を立てた高杉晋作と申します。わしは上海にも行ったことがあり、イギリスの強さというものをうっすらとではありますが感じておりました。ただ、長州においてそのようなことは言い出せず、また、国の中でのしあがることしか考えておりませんでした。今、お叱りを受け、自分達の不明に恥じ入るばかりです」


「いや、国に尽くすこと、尊王の志、それはもちろん悪いことではない。ただ、そこには実を伴わないといけない。反対の行動をとることによって、志に中身を付け加えることができるのだ」


 俺がもっともめいたことを言うと、総司が失笑を浮かべている。


「燐介、おまえ、何か悪いものでも食べたんじゃないのか?」


 うるさい、たまにはカッコいいことも言ってみたいんだよ。



 俺と総司がやいやいやりあっていると、高杉が一礼した。


「この計画はわしの責任によるものです。わしはどうなっても構いませんが、残りの者は釈放してもらえないでしょうか?」


「……勘違いするんじゃない。俺は松陰先生なら、今のお前達を残念に思うだろうと感じただけだ。何も処罰したいわけではない。そして、この中にイギリスに行きたい者がいるのなら、若干名なら連れていこう」


 たちまち、「おぉ!」という声があがった。


 少し前まで酔いつぶれていた連中が、急に「自分が行きたい」、「いや、俺だ」と主張を始める。


 収拾がつきそうにないから、「騒ぐんじゃない」と呼びかけて、腕組みをした。


「全員が全員イギリスに行けば良いというものでもない。まず高杉よ、おまえは松陰先生の高弟であり、長州でも立場のある人間だ。安易に離れることは望ましくない」


「……左様ですな」


「伊藤と井上はいるか?」


「拙者が伊藤です」、「井上です!」


 と二人が進み出た。


 ほ~、この時期の伊藤はこんな感じなのね。若いというのもあるし、髭がないから大分印象が変わるなぁ。井上はその点、ちょっといかめしい感じなのは写真通りでそれを若くしただけだ。分かりやすい。


「松陰先生が何かの話題にしていたから、おまえ達二人の名前は憶えている。これも縁だろうから、まずはおまえ達二人を連れていくことにする」


「おぉ!」、「ありがとうございます!」


 二人は大喜びだ。


 本当は松陰が話題にしていたわけではなく、名前を知っているのが高杉以外だと伊藤と井上しかいないというのが正確な理由だ。


 残りの者達はがっかりしている。フォローしておいた方が良さそうだ。


「残りの者も、伊藤や井上が戻った後、随時来れば良い。先ほども言ったが、大勢いる全員が全員、全く同じことをするのは望ましくない。それぞれが、それぞれのやるべきことをやるのだ」


「分かりました!」


 全員が応じた。近藤と土方の方を向くと、何がなんだか分かっていないようで「ま、そういうことでもいいんじゃないの?」という顔をしている。


 これにて一件落着というところだろう。

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