第18話 燐介、京に向かう
以蔵は年が明けるまで江戸にいるという。
それが終わったら、京に戻って人斬り再開……ではなく、アメリカに行くということになった。そう、ニューヨークのナショナルリーグに参加するために。
日本人初のメジャーリーガー・村上正則に101年先駆けて、日本人がアメリカで野球をするという。途方もない出来事だ。
もっとも、能力という点では問題ないだろうが、英語が話せるのかとか気になる点は色々ある。更に以蔵は喧嘩っ早いしなぁ。
喧嘩っ早いという点ではアメリカの選手も負けていないけどさ。
とりあえず、以蔵をどうするかという問題については解決した。
で、本題だ。
「京に行くから護衛が欲しいんだけど」
「護衛か……」
近藤が考えていると、土方がずいっと乗り出してきた。
「それなら俺がいいだろう。俺は一太と京に行っているからな」
「えっ、そうなの?」
近藤に尋ねると、「行ったよ」と頷いている。
とはいえ、土方はなぁ。
何か、土方が絡むと問題が大きくなるような気がするんだよなぁ。本人も軽いし。
しかも、竹子と八重、イネさんがいるのだ。土方なら全員守備範囲に入っていそうな気がして不安でならない。
できれば、総司についてきてもらいたいところだが。
「燐介、俺はムッシュ・ソウジとして京の治安維持のための兵法を立てなければいけないんだ」
……。
こいつは何を言っているんだ?
結局、色々考えたけれど、総司に断られた以上は、土方で仕方ないということになった。
斎藤一は某漫画の影響でちょっと怖いし、永倉新八も見た目がいかつい。近藤はさすがに道場を離れられないとなると、選択肢がない。
「じゃあ、明日、早速横浜に行きたいが、いいか?」
「おうとも、構わんぜ」
しかし、松平容保の補佐に山口がついていて、土方は既に京に行ったことがある。
沖田はイギリスもフランスも行って、剣より銃を手に取って自らが指揮官になる気満々。
新選組はどういう方向に進んでいくんだろうか?
もう新撰組ですらないのではないか。
翌日、俺は近くの旅籠にいる三人を迎えに行くことにした。
とりあえず土方にはきつく言っておく。
「土方さん、三人ともイギリスまで行った重要な女性なので、手を出すのは絶対にダメだから」
「おう。分かっているとも」
と、全然聞いていない顔で答えている。
「特に中野竹子は、オスマン帝国の皇太子から求婚されている身だ。変な事をしたら、日本とトルコの問題に発展してしまうかもしれないから、絶対に変な事をしないように!」
「……ほう。そいつはすごいな。分かった。中野竹子はやめておくよ」
「……おい」
と言いつつ、俺もミスったと思った。
中野竹子は絶対にダメだ、なんて言ったら、「他の二人は仕方ない」と認めたように受け止められかねない。
「山本八重も変に手を出したら、会津中将様に怒られるぞ」
とは言ったが、これだと負け犬の遠吠えみたいだ。
まずは東禅寺に顔を出して、ジョン・ニールに挨拶をした。
江戸城での勝海舟との話について説明をし、一旦猶予を貰えないか頼んでみる。
「……ラッセル卿の信任を受けて、やって来た君が言うのなら仕方ないだろう」
「今度は薩摩と話をするけれど、その兼ね合いで京に向かうことになる。幕府の回答については、今度親書でラッセル卿に報告しておいてくれないかな?」
「承知した」
「横浜の方はどう? 何か主張している?」
「いや、何も言っていない。連中も、自分達の立場は理解しているだろう」
自分達の立場というと、ジョン・ニールが思い切りキレて「こんな地球の裏まで来たダメ人間のくせに」と騒ぎ立てたというやつか。
とりあえず、横浜が暴発しないのなら京に向かってもいいかな。
「ただ、近々上海にいる英国海軍の船が横浜に回ってくるとは聞いている」
英国海軍の船か。
それは一応話を聞いておいた方が良さそうだ。
「じゃあ、なるべく早く横浜に行くから、海軍の人達には俺を待ってもらうよう頼んでもらってもいいかな?」
「やっておこう」
よし、とりあえず江戸でやることはこれで全てかな。
京に向かおうと、口にしたところで。
「佐那さんに挨拶には行かないのですか?」
と、八重が突っ込んできた。
「佐那に……?」
「そうですよ。黙って京まで行くなんて、冷たくありませんか? アブデュルハミト様はそのようなことはしないと思いますよ」
中野竹子もキツイことを言ってくる。
いや、俺、あいつより冷たそうな人間に見えるわけ?
「そうだ、燐介。黙っていくなんて冷たい奴だ。挨拶に行った方がいいぞ」
土方まで言ってくる。
おまえにだけは言われたくないんだが。
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