第12話 太陽の国へ
紆余曲折あって、ノリのいい元大統領サンタ・アナの口車に乗せられるような形でメキシコに行くことになってしまった。
カリフォルニアからメキシコに行くとすれば、陸路と海路がある。
21世紀の現代なら陸路で行くのも悪くない。サンフランシスコから南に行けばロサンゼルスがある。更に南のサンディエゴからメキシコ第二の都市ティファナへと入ることができる。
しかし、この時代のロサンゼルスやサンディエゴはまだまだ村のような場所だ。
極論してしまえば、東のアリゾナ、ニューメキシコと並んで荒野ばかりの場所である。
実はここサンフランシスコには、時々アリゾナから求人募集のようなものが来ている。
たまに金鉱が発見された時とか、現地住民とトラブルになって助っ人募集というのが定番である。
しかし、最近、「とてもずる賢い悪魔のような狼が、牛や羊を食いまくるからハンターを募集する」という求人もあった。
シートン動物記の世界だ。昔、読んだことはあるのだが、話を忘れてしまったし、動物への専門知識は全くないので、丁重に無視することにしたが。
以上を考えると陸路は大変だということで、船で行くことになる。
問題はメキシコに行く船が簡単に見つかるか、ということだ。
もちろん、メキシコに行くだけの船なら沢山ある。しかし、安全の保障のない船は多い。19世紀なので海賊の類はいなくなったが、客を運ぶより殺した方が金になると考える不埒な奴らは少なくない。
しかし、幸いなことに合衆国海軍の船が一隻メキシコに行くということになった。
しかも。
「よう、リンスケ。久しぶりだな」
「……うん? おまえ、もしかして、ジョージ・デューイか!?」
7年前、アメリカに初めて来たときからの付き合いで、イギリスにも一緒に行ったデューイが船長だった。
これはラッキーだ、と思ったら。
「大統領から、おまえ達は合衆国の鍵となるかもしれない人物だから、きちんと護衛しろと言われてやってきた」
とのことだ。
リンカーンが手を回してくれたらしい。有難いことだ。
ただ、本人としては、連合国軍相手に大活躍するつもりのところ、日本人の護送が役割になって不本意かもしれない。
「悪いな。連合国軍相手に活躍する気満々なのに、俺達の護送の役割になってしまって」
一言断っておこうとしたが、デューイは「いいってことよ」と気楽に笑う。
「少し前までファラガット大佐の下にいたんだが、しばらく出番が無さそうなんでね」
「出番がないということは、戦線が落ち着いているのか?」
「うーん、そうでもないんだ」
デューイによると、ファラガットは南部出身のため、全面的な信頼を寄せて起用すべきか上層部に迷いがあるらしい。だから、デューイもしばらく後方待機を余儀なくさせられていたという。
「それなら、リンスケと一緒の方が色々予測不可能なことが起きて面白そうだからな。名乗り上げて来たっていうわけだ」
「なるほど……」
「オリンピックの方はどうなんだ?」
「いやぁ……」
俺はお手上げとばかりに両手をあげた。
「アメリカが戦争、フランスも出兵するかもしれないとなると、そんな雰囲気にはならないよ」
「いっそ、ヨーロッパを離れてアジアとか行ったらどうなんだ?」
「アジアねぇ」
まさかアメリカ海軍のデューイからアジアについて勧められるとは思わなかったが。
「アジアも混乱しているからなぁ」
中国の清は世界中からフルボッコにされていて、日本は絶賛幕末中だ。
インドはイギリス領として落ち着いているようだが、数年前まで大反乱をしていたというし、インド内部も民族同士の争いが大きい。
「どこかで戦争になると、同盟やら何やらの関係で一気に世界中が戦争になる。そういう時はさすがにどうしようもない。今はやれることをやるしかないさ」
第一次世界大戦も第二次世界大戦もそうだった。結局、世界が広がるにつれて、ネットワークが生まれ、だからこそ一旦戦闘になると世界全てがどっちかの立場で戦うことになる。
「そうか……。それなら俺は嬉しいよ。リンスケは負ける側にはつかないからな」
「ハハハ……」
まあ、それは間違いない。
デューイがいることで、メキシコへの旅は大分楽しいものとなった。
サンフランシスコから南東に向かい、メキシコ最大の港である中西部のマンザニージョ港へと入っていく。
太陽の国・メキシコだ。
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