第11話 燐介、サンタ・アナと会う③
動物同士を戦わせる、ということは古くから世界中で行われていた。
例えば闘牛、あるいは闘犬。
闘鶏はその中でも広く行われてきていた。
ボクシングなどの格闘技で、バンタム級やフェザー級という階級がある。
バンタムというのはまさに鶏のことだし、フェザーも羽を意味する。これらは闘鶏が影響して作られた階級だという。
そのくらい、一般的なものだったということだ。
とはいえ……。
「闘鶏か……」
現代では、動物保護の観点からこれらの競技は白眼視される。
とはいえ、一部地域では今なお行われているのも事実である。
例えば宇和島の闘牛や、高知の闘犬などがそれだ。闘鶏についてはおおっぴらに開催されているケースは知らないが、密かに行われているという話は聞く。
ちょっとしたスリルを楽しめるし、手っ取り早い賭け事としても有効だということもあるのだろう。
闘鶏の世界大会と言えば、結構盛り上がるのかもしれない。
しかし、盛り上がるかもしれないということと、実際に行うということと話は別だ。
古代オリンピックも近代オリンピックも人間の競技しか入れていないわけだからな。唯一の例外は馬術なのかもしれないが、これも人間が主導している。
鶏が参加するというのは想像できない。
もちろん、動物保護という観点でも闘鶏には問題があるだろう。
俺はそういう部分を説明することにした。
「古代オリンピックもそうだけど、オリンピックは人類の限界に挑戦するものであって、ニワトリではないんだ」
面白そうではあるけれど、主催が難しそうだよなぁ。
「ふうむ、面白いと思うのにネ……」
「面白いことは否定しないよ。だから、サンタ・アナさんが闘鶏の世界大会を作ればいいんじゃないの?」
「闘鶏の世界大会ネ……」
でも、実際開催するとなると難しいかもしれないな。
昔は国や地域をあげて闘鶏、闘犬、闘牛をしていたところもあるが、この時代はそこまでおおっぴらにやっているわけではない。目の前のサンタ・アナがそうであるように、個人的に好きな人はいそうだが、世界規模として成功させるのは難しい。
現代なら、動物虐待という批判を抜きにすれば、ネットで映像を流してギャンブルにするなんて方向があるのかもしれないが。
サンタ・アナは恨めしそうに俺を見た。
「リンスケ、おまえはわしに協力したくない、ということネ?」
「いや、そういうわけじゃなくて、うまく行くかどうかが分からないわけだし」
「うまく行くに決まっているネ! フランス軍50万にわしの徒党が……」
「いや、フランスが50万も出さないし……」
「イギリスやスペインも来るネ」
「うーむ」
本当なのだろうか?
そうだとすると、メキシコはフランスが支配する寸前くらいまで行っていたことになる。ただ、マクシミリアンが皇帝になって、最終的に負けたということを知っているだけで途中経過までを全部押さえているわけではない。
「それなら燐介。こうしようじゃないか。フランスだけでなく、イギリスとスペインも出兵したならば、アメリカも協力するという形にしては?」
諭吉はメキシコをフランス領にしたいと考えているようだ。
「……分かった。起きていることを正直にウィーンに伝えよう」
俺はマクシミリアンになるべく撤退してほしいと思っている。
しかし、だからといって、現実を捻じ曲げて報告することはできない。そんなことをして嘘をついていたとバレれば、マクシミリアンだけでなく、エリーザベトや他の者にまで恨まれるかもしれない。
そのうえでマクシミリアンがメキシコ皇帝になりたいと言うのなら、本人の意思を尊重すべきではないだろうか。俺はマクシミリアンの保護者じゃないのだし、是が非でも彼を食い止めなければならないという義務はない。
釈然とはしないが、そういう形で方向性を決めることにした。
と思ったら、サンタ・アナが言う。
「まだ納得していないようネ。仕方ないネ。わしの徒党に迎えさせるから、メキシコシティで思う存分メキシコのことを見てくるがいいネ」
「メキシコを?」
「そうネ。ありのままのメキシコを見れば、わし以外にメキシコを統治できる者がいないということが分かるネ」
「でも、皇帝を迎え入れるんじゃなかったのか?」
「もちろん皇帝は迎え入れるネ。でも、皇帝も全ては知らないネ。重要なところはわしが取り仕切るネ」
なるほど、皇帝は傀儡にして、実質自分が取り仕切ると。
そういうところが信用できないところなんだぞ、サンタ・アナ。
「ちょっと一日くらい考えさせてくれ」
サンタ・アナをどこまで信用したらいいのか。
メキシコを直に確かめるのは魅力的な提案だが、実際にできるのか。
今すぐには判断できない。一度保留して、冷静になって考えることにした。
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