第2話 沖田、東禅寺襲撃を防ぐ


 7月、俺達はイギリス大使館のある東禅寺の警戒を強めていた。

 土方さんがここを襲撃する計画を聞きつけたからだ。土方さんは空振りも多いけど、俺達の知らない情報をどこからか持ってくるんだよね。

 ま、多分料亭だろうけれども。

 ついでに綺麗な女の人がいるところだろうけれども。


「ミスター・ソウジ、今日もお願いしますよ」

 大使館にいるイギリス人から挨拶される。

 英語が出来ることもあるし、自分で言うのも何だけど強いから、俺はかなり信頼されている。

 燐介や山口さんの方が頭は冴えるが、戦闘力はないんだよな。こと日本でイギリス人やフランス人を相手にするうえでは、俺が日本一ではないだろうか。


 入り口近くにはいかつい近藤さん、中には臨機応変に対応できる永倉さん、陰険で隠密行動もできる斎藤さんが遊撃隊で、俺と土方さんが奥で戦況を見定める。

 もちろん、大掛かりにやると相手が警戒するから、目立たない形でやる。


 日中、何もないときには土方さんと茶を飲みながら雑談だ。

「総司よう、お前、ふらんすで兵法を学んだんだって?」

「そうだよ。ナポレオンっていうヨーロッパ中を支配したすごい人だって皆んなが言っていた」

「そいつはすげえな。俺にも何か教えてくれよ」

「彼は馬で移動中に寝て、その代わり寝る間も惜しんで敵の情報を集めたらしい」

「……移動中に戦闘になったらどうするんだ?」

「そうならないように移動するんだって」

「なるほど……」

「あと、落ち着くために、いつも丹田のあたりに手をあてていたらしい」

「それは兵法なのか?」

「で、銃を大量に揃えて圧倒したらしい」

「それなら誰でも勝てるように思うが、当たり前のことを徹底しろってことなのかね?」


 警戒しはじめて三日。

「品川の妓楼に騒ぎ立てている連中がいた」

 報告に来たのは付近を警戒している島田さんと原田さんだ。

 場所については土方さん任せだったけど、「最期に女でも囲って未練を無くしてから来るだろうさ」というのは大当たりだったようだ。

「人数は?」

「中には入れなかったが、15人くらいだろう。20人はいないはずだ」

「それなら、ここにいる連中で十分か」

 土方さんが一同を見渡す。

 試衛館の面々だけでも何とかなりそうだし、幕府の同心もいるからね。

「当たり前よ」

 原田さんが胸を叩いた。俺に任せろというところだけど。

「道場ではお前が一番成績が悪いぞ」

 近藤さんが笑いながら言う。

「道場と戦場は違うんですよ!」

 原田さんが赤くなって反論し、また周りが笑った。


 更に3日後。

「奴らが妓楼を出た!」

 報告と共に俺達は臨戦体制だ。

 土方さんは「来る前に途中で襲えば一網打尽じゃねぇか?」と提案したけど、怪しいとはいえ本当にここを狙っているのか定かではないし、ここを留守にするのも怖いという理由で迎え撃つことになった。

「だ、大丈夫なんだろうね?」

 不安げな様子で大使のオールコックが尋ねてくる。

「変に逃げなければ大丈夫だよ」

 俺が答える。

 オールコックは今回の話を聞いて怖気ずいて「江戸を離れて横浜に行こう」と言っていた。ただ、残りの大使館員は「女王の配下たる我々が逃げるなど言語道断」と反対した。

 どっちが正しいのかは、分からない。

 横浜なら安全って訳でもないし。


 考える時間は少なくなってきた。

「来たぞ!」

 近藤さんの気合の声が響いた。


「おのれ! 待ち伏せか!?」

 完全に待ち構えていた俺達を見て、相手は激昂しているが動揺も明らかだ。

「そうとも! お前達の内通者が教えてくれたのさ。後でたっぷり褒美が貰えるぞ!」

「何ぃ!?」

 後ろから叫んだ土方さんの挑発で勝負あった。

 死ぬ気で向かってきたはずの浪士達は「裏切り者がいるかもしれない」という事実に動揺し、「しかもそいつが褒美を貰う」という言葉に連帯感を失った。

「誰だ!?」

 敵を前にして裏切り者を探そうとするのだから、世話がない。

 そこに近藤さん、永倉さん、島田さん、原田さんが斬りかかる。3人斬られて逃げようとしたところで、斎藤さんと外国方同心の斎藤大乃進の2人が打ちかかり、勝負ありだ。


 俺は出る間もなかった。

 土方さん、何も勉強していないのに駆け引きが凄いなぁ。

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