第6話 燐介、革命的フットボールに苦戦する①

 アルバート大公との面会という予想外の出来事はあったが、俺達のチームは次の日からオックスフォード大学を皮切りに多くのチームと試合をしていった。

 その全てに快勝した。

 しつこいようだが、俺達のチームには21世紀の戦い方もちりばめられているのだ。こんなところで負けるはずもない。

 当然、マルクスのチームにだって余裕で勝つ!

 と、意気込みながらマンチェスターに乗り込んでいった。


 フリードリヒ・エンゲルスの工場近くにあるグラウンドに出向くと。

「ハハハハハ! 遂に同士となる日が来たか、リンスケ!」

 マルクスはベンチにふんぞりかえっていた。

「なるか! さっさと試合して、俺はスコットランドに行くんだよ」

「何!? 貴様、まだゴルフのような悪い遊びをしようというのか!」

 悪い遊びって何だよ、革命ごっこより余程マシだと思うぞ。

「それはそうと、リンスケ。吾輩はルールの変更を提案したい」

「何?」

 ルールの変更?

 まあ、この時代、当事者の同意があれば試合前にルール変更をすることができる。

 しかし、何を変更するつもりなのだ? マルクスの奴、全英規模で結果を残したというようなことを言っていたが、このルール変更が影響しているのだろうか。

「吾輩は提案する! 選手交代を無制限に行えるようにしようではないか!」

 選手交代を無制限に、だと?

「それはつまり、人数制限もなければ、一度下がった選手がもう一度登場することもできるようにするということか?」

「そうだ……」

「むむむ……」

 21世紀の現在、サッカーにおいて選手交代は5人までと決められている。また、一度退いた選手が再出場することは認められていない。

 マルクスの提案は、この制限を撤廃しようというものだ。つまり、気に入らなければ11人全員を変えてしまっても構わないし、休憩させてリフレッシュしたところで再登場させることもできるというものだ。

 サッカーというよりは、バスケットボールやアメリカンフットボールに近い。

「どうだ? 吾輩の革命的フットボールが怖くて受け入れられないか?」

 革命的フットボール!

 マルクスの奴、随分と大きなことを言いやがる。

「いいだろう。選手交代は無制限、だな。他に何かあるのか?」

「他はない」

「俺から提案することはない。それでやろうじゃないか」

 まんまと挑発に乗せられた形だが、俺には自信があった。


 交代枠が増えるということはどういうことを意味するのか。

 選手の体力への不安が減る、ということである。

 サッカーに限らずほとんどの競技において、時代が下れば下るほどより大きな体力が要求されるようになった。令和の時代には、サッカー選手はそれこそ90分走り回るくらいの体力が要求されている。

 とはいえ、さすがにそれは難しい。だから、疲労した選手を取り替えて体力を維持させる。


 マルクスの狙いはそこだろう。

 この時代のフットボールはそこまで体力を重視するわけではない。あくまでかわす技術や即興芸が要求されている。

 そんなところにひたすら走り回るサッカーを展開したら、相手は面食らうに違いない。

 マルクス側のチームを見た。全員、体格がしっかりしていてかなり走れそうだ。

 走って、走って、走りまくる。

 疲れた選手はすぐ交代させて、休ませた後、また走らせる。

 元日本代表監督イビチャ・オシムのような「走るサッカー」を目指しているに違いない。


 俺はニヤリと笑う。

 それならば、俺にしても志向は同じだ。

 俺もチームに、21世紀型の体力のいるサッカーを教え込んできた。

 同じやり方であるならば、19世紀の発想力と21世紀の発想力との差は遥かにデカい。あ、21世紀の発想と偉そうに言うけれど、俺じゃなくて名だたる監督が考えてきたものだけどな。

 とにかく、時代の差は圧倒的だ。

 文字通り、「おまえが俺にそんなやりかたで挑むなんて百年早い」というわけだ。

 実際には百五十年だ。

 負けるはずがない。


 俺はこの時点では勝ちを確信していた。

 だが、それは大きな間違いだったということは30分後には知ることになる。

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