第6話 一太、桂小五郎の訪問を受ける①


 二日後、私は総司とともに市谷の試衛館を訪ねていた。

「……全国から剣士を集めて大会を開くというのは凄いことになったものだな」

 近藤勇がうんうんと頷いて、近くにいる永倉新八に声をかけた。

「新八、一つ、出てみたらどうだね?」

「俺みたいな国抜けした奴はダメだろう」

 近藤が「あぁ、そういうものか」となったところで、私が答える。

「江戸にいる者に関しては、道場主やそれに類する者の保証があれば出ても構わない」

「本当か?」

「江戸の物騒な連中を集めたいわけだから、なるべく出られるようにしている」

「じゃあ、新八、出ろよ」

「冗談じゃないよ。それなら近藤さんも出るべきじゃないのか?」

 と、廊下でわいわいと言い合っている。

 ちなみに一時期、ここには岡田以蔵もいたようであるが、少し前に坂本龍馬らとともに土佐に帰っていったらしい。

 奥の方から二人の剣士が現れた。

「そうは言っても……」

 一瞬、誰か分からなかったが、顔を見て、以前、松陰先生が無理矢理ここに押し付けた水戸の脱藩浪士二人であることを思い出す。

 どうやら、試衛館で大人しく修練に励んでいるらしい。結構なことだ。

「水戸からはあまり来ないのではないだろうか?」

「……何故?」

「井伊直弼のせいで斉昭様は蟄居を強要されたし、尊王の家という自負がある。将軍の指示何するもの、という思いがあるだろう」

「その点なら心配いらないよ」

 私の代わりに総司が答えた。

「その斉昭さんだっけ、今、江戸に向かっている途中だから」

「何だって!?」

「この前、将軍の方から土産物の御礼と、今後のことも兼ねて蟄居は解除して、江戸で一度相談したいと呼び寄せているらしい」

「何と、斉昭様が……?」


 徳川斉昭は尊王側のボス的存在で、厄介といえば厄介である。

 しかし、一方で斉昭によって藩士がまとまっているという側面があるのも事実である。この年に斉昭が死んだことで、水戸徳川家はまとめる者がいなくなってしまい、内部抗争が激しくなっていった。

 その最たるものとして水戸天狗党の乱がある。天狗党の挙兵と失敗による報復措置で水戸は多くの人間を失っていった。新政府に参加する者がほとんどいなかった。

 水戸の動向については自業自得なところもあるのだが、暴れ者を大勢放たれると迷惑なことこの上ないから、できれば斉昭に最低限の管理をしてもらいたいところはある。

 もちろん、斉昭がいるから全てうまく収まることはないだろうが、多少マシになってくれれば、色々と面倒事が減るのではないかと思う。

 そういう理由もあって、将軍に斉昭の蟄居解除と、江戸への登城を要請したのである。


 水戸の面々としばらく話をしていると、入口の方が騒がしくなってきた。

 バタバタと足音がして門弟が駆け寄ってくる。

「近藤先生、客人が来ています」

「客人?」

 永倉とワイワイやりあっていた近藤が、けげんな顔を向ける。

「特に誰かが来るとは聞いていないぞ。誰だ?」

「はい。長州から来た桂小五郎と名乗っております」

「桂!?」

 という私の叫び声と、「知らない奴だなぁ」という近藤の返事が重なる。

「山口という者がいるなら、会いたいと申しております」

「……山口?」

 当然、全員の視線が私に集中した。


「もしかしたら、松陰先生から山口さんのことを聞いていたんじゃない?」

 総司が言った。

 私もそうだろうと思った。

 桂小五郎は松陰先生の影響を強く受けている人物だ。だから、松陰先生を通じて私のことを聞いていたに違いない。少なくとも、試衛館に私がいるということは松陰先生以外の長州の人間には分からないことだ。

「どうするんだ?」

「……私がいるのに、追い返すのも失礼だろう。会うことにする」

「安心しろ。俺達がいるよ」

 永倉が私の肩を二回たたいた。

 実際、結構ビビッている。

 将来のことは別として、現在の桂は尊王攘夷の首魁とも言える存在である。当然、私のことを煙たく感じているに違いない。

 さすがに試衛館で斬るということはないと信じたいが、この時代ならそんなことも不思議ではない。


 それにしても、今更言うことではないが、もう訳が分からないことになっている。

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