WBC優勝記念番外編:スポーツ界の転生者

作者注:この話は本編とは全く関係ありませんので、関心のない方は一話飛ばしていただきますようお願いします。



 日本がWBCで優勝した。

 俺達は多くの者と街で飲みかわし、スポーツバーで再放送を見て更に盛り上がり、その夜は近くのネカフェで過ごすことになった。


 翌日、大学に行くと山口が悩んだ顔をしている。

「どうしたんだ?」

「燐よ。俺は思ったんだが、大谷翔平というのは異世界から転生してきた存在なのではないか?」

「いきなり何なんだよ?」

 あまりにも藪から棒な発言だが、否定できないのも確かだ。


 投打の分業著しい種目で、両方をやるというのは画期的だ。まともな発想ではない。

 それを完全に実行するというのは理解不能だ。

 メジャーリーグのシーズン中でも、国際大会ですらも、ずっと主力打者として出つつ、投手も行い、国際大会決勝で最後に登板してしっかり抑える。

 よく言われる話だが、漫画家がこんなネタを出しても編集に「やり過ぎだ」とボツにされるという。

 フィクションの域すら超えているというわけだ。


 そうなると、大谷翔平は異世界転生をしていて、未来を知っていて無双していると考えたくなるのも不思議ではない。

「ただ、二刀流というのは本人が言うだけでは不可能だし、事実、本人すらプロレベルでは当初不可能だと考えていたという。実際に投打両方を最高レベルでやらせようという栗山監督の存在がいなければそもそもなかったはずだ。そういう点では、栗山監督が異世界転生者なのかもしれないが……」

 栗山監督は十分すぎる成績を残してはいるが、異世界転生したという程の無双感はない。

 いや、ファイターズはチームに資金を出さないから、チーム力を維持すること自体が並の力量ではないし、代表で優勝したのだから凄いのだろう。準決勝で村上宗隆を信じて打たせたあたりは結果を知っていたから、と見るのも不可能ではない。


 うーむ、転生者であると否定できる要素がない。

 ちょっと別格過ぎる。一度の人生でこんな高みにたどり着けるはずがないと考える方が自然だ。

 栗山監督は二度目、大谷翔平は三度目くらいの人生チャレンジなのかもしれない。


 過去にこんなフィクションを超えた者達がいたのだろうか?


 もちろん、スポーツが競争力を増す前の時代ではそういうこともあった。

 例えば、ロジャース・ホーンスビーだ。

 セントルイス・カーディナルズの伝説的二塁手であったホーンスビーは1925年、チームの監督を兼任しながら三冠王を取るという離れ業を成し遂げた。その翌年には打撃成績は落ちたが優勝監督と主力打者を兼任した。


 この時代のアメリカや、太平洋戦争前後の日本球界を探せば、すごい選手は何人も出てくる。ただ、この時代は選手が少なくて競技レベルには問題があった。

 これらを大谷翔平と比較するのは無理があるだろう。


 大谷翔平も、そして近々MLBの殿堂入りするだろうイチローもワールドシリーズにはまだ出ていない。

 そのワールドシリーズに二度の出場経験があり、更にスーパーボウルにも二度出場したディオン・サンダースはどうだろうか?

 大昔の話ではない。1990年代半ば以降の話だ。

 ある時など、昼にアメフトのゲームに出て、夜にベースボールの試合に出るためにヘリコプターで移動したという。このような話を聞けば、彼が転生者であったとしても不思議とは思えなくなるだろう。

 ただし、ディオン・サンダースはアメフトでは殿堂入りするレベルの選手だったが、野球はそこまでではなかった。俊足は間違いないが、打つ方は非力で、タイトルなどには縁遠い選手だった。

 それでも、あのマイケル・ジョーダンが野球では完全に3Aレベルだったことを考えると、苦手な方でも優勝チームでレギュラークラスを獲得できただけでも大したものだ。


 結果は残せなかったが、役職として最強なのはジョージ・ウェアだろう。

 リベリア最高のアスリートであるジョージ・ウェアは、ヨーロッパ出身者以外で初めて欧州最優秀選手であるバロンドールを獲得したサッカーの名手だった。

 リベリア自体が人材難だったこともあり、一時はサッカー協会会長、代表監督、代表キャプテンを兼任した。これでワールドカップにでも出たら大変なことだったが、今も当時もリベリアは微妙で、それは敵わなかった。

 尚、引退後にリベリア大統領にはなった。


 もし、転生ものとしてうまく行くのなら、ウェアのパターンだろうか。


「何を言っているんだ、燐?」

 しばらく話を聞いていた山口が割って入る。

「次回のWBCで大谷翔平が監督兼選手の三刀流で優勝すれば、もう誰も勝てないんじゃないか?」

「あっ……」

 それは盲点だが、彼ならばやりかねない気がしてきた……



 侍ジャパン、優勝おめでとうございます!

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