第4話 燐介、オール・イリノイチームのマネージャーとなる
「フットボールのチームを作るとは、どういうことだ……?」
ベルモントが唖然とした様子で尋ねてくる。
「ヨーロッパではフットボールが流行ってきているじゃない。知らない?」
「……噂では聞いている」
「ダグラスさんにしても、リンカーンさんにしても、今度の大統領選挙で勝った後に南部が文句を言ってくるかもしれないでしょ?」
「……可能性はあるな。しかし、それとフットボールのチームがどう関係あるのだ?」
「北部と南部が険悪になった場合、北部がヨーロッパの支援をどれだけ受けられるかが重要でしょ。ベルモントさんが俺を評価しているのも、俺がバーティーやらウージェニー皇后やらと繋がりがある点だと思うし」
「それも分かる。繰り返しになるが、それとフットボールのチームがどう関係するのだ?」
ベルモントは首をひねっている。
「俺がフットボールのチームを作って、例えばオックスフォードやケンブリッジ大学、パリ大学のチームと対戦する。白人のチームも黒人のチームも作ってね。そうすればヨーロッパの人達は思うはずだ。『アメリカ北部は南部と険悪な関係にあると言うが、こんなに強いチームがあるんだ。南部と競争になっても絶対に勝つだろう』って」
この時点で、ベルモントはハッとなった。
「アメリカ北部をフットボールでPRするというのか」
「馬でできればいいんだけど、さすがに馬はヨーロッパまで運ぶのが大変でしょ。それに戦争になるかもしれないとなったら軍馬として必要になるし」
「確かにアメリカの馬で席巻するのは難しいな。しかし、フットボールならヨーロッパに勝てるという保証もないと思うが?」
このベルモントの危惧はもっともである。
金を出してオールアメリカ北部チームを作ったとして、それがヨーロッパで全く勝てないのであれば、あまり意味はない。もちろん、イギリスの上流階級と親睦を深めることができるくらいの効果はあるが、やはり勝たなければ話にならない。「アメリカは凄い」、「黒人のチームも凄い」と思わせなければならない。
もっとも、この点では俺には勝てるという自信がある。
何せ21世紀のサッカーを知っているわけだからな。もちろん専門的にコーチングを学んだわけではないが、19世紀のサッカーをするチームに21世紀のサッカーで戦うというのは、それこそ竹やりを持っている相手にマシンガンとジェラルミンシールドで戦うくらいの差があるはずだ。
知識無双、歴史無双というやつだ。
「俺はフットボールとベースボールなら無敵のチームを作れる。ベルモントさんもここまで俺を買ってくれていると思うから、もう一声行ってくれてもいいんじゃない? 『オール・イリノイチーム』を名乗ればダグラスさんもリンカーンさんも得をする」
「ふむ……。面白そうな話ではあるが、金がかかりそうだな……」
「今すぐに運営費全部が必要なわけじゃないけど、それなりにかかるのは確かだね……」
俺は見積書をベルモントに見せる。
途中まで「まあ、こんなものか。仕事もさせるのか。専業でないのはいいことだ」とか頷いていた。
ちなみにこの頃から、一部の競技ではプロ選手と言うべきものが登場してきている。ベルモントの言葉はそれを想定したものだ。もちろん、プロ選手であればもっと強くなるのだろうが、さすがに出費がでかすぎる。当面は兼業選手ということになるだろう。
「何だ? このジャマイカへの旅行費というのは?」
「いや、ジャマイカは強いんだよ。だから、ちょっと練習試合とかね?」
「本当か? どこでそんな情報を仕入れてきたんだ?」
「嫌だなぁ、今まで嘘をついたことはないじゃないか」
「むぅ……」
ベルモントは「少し待っていてくれ」と言って、見積書を持っていった。ひょっとしたら、スティーブン・ダグラス他、民主党の富豪と相談するのかもしれない。
リンカーンの財産状態を見るに、とても頼めそうにない。敵に頼るのはどうなのかという意見もあるけれど、勝ちさえすればダグラス陣営だって得するはずなのだ。ただ、歴史はリンカーンを勝者にする、と俺が知っているだけで。
しばらくすると、ベルモントは”小さな巨人”スティーブン・ダグラスを連れて戻ってきた。ダグラスは今日も自信満々に不敵な笑みを浮かべている。
「小僧! 面白いことを考えるじゃないか! オール・イリノイの最強チームを作って、ヨーロッパに宣伝するって?」
余裕綽々と言った表情。
本当にこいつにリンカーンは勝てるのか?
現代に戻って確認したくなるくらい、圧倒的な差があるように思うんだが……。
ひょっとして突然死とか暗殺されるんだろうか?
「はい。俺ならできます。ダグラスさんにも、リンカーンさんにも損はさせません。何ならユニフォームを作ってもらってもいいですよ? シカゴ・ベアーズとかシカゴ・ホワイトソックスとかシカゴ・ブラックホークスとかシカゴ・ブルズとか名乗りましょうか?」
「よく言った! 金はこの要求の通り、我々で工面してやろう。是非最強チームを作ってイギリスをアッと言わせてくれ!」
あぁ、それもあるんだな。
何だかんだ言って、アメリカはイギリスと比べるとどうしても小さい。独立こそしたものの、イギリスとまともにやり合っては勝てないと思っている。
だからこそ、ダグラスのようなアメリカの名士には何とかイギリスをぎゃふんと言わせたいという思いがあるわけだ。
自分で言うのも何だが、非常にいいタイミングで、持ちかけたのかもしれないな。
ともあれ、俺はダグラスやベルモントから運営資金を頂戴することに成功した。
よっしゃ、やってやるぞ!
おまけ・シカゴのスポーツチーム名:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16817330653790714559
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