落ちてるペットボトル

@wataage

落ちてるペットボトル

大学の帰り道。1人でラジオを聴きながら帰るのが好きだ。

今日は一日雨が降っている。

池袋駅から山手線に乗る。


私はどんなに席が空いていようとドア横の手すりによりかかる。

電車に乗ると席はほぼ埋まっている。

いつものようにドア横に身を寄せる。

スマホをいじっているとその視線の先にひとつのペットボトルが落ちている。

ちょうどドアの反対側の手すりの下にある。

確実に誰かがポイ捨てしたであろう。ポイ捨てというか置き捨てかな。

無視しようと思ったが謎の正義感に襲われる。

「このペットボトルを何としてもゴミ箱に捨てよう」


西日暮里の駅のホームには確実にゴミ箱がある。

それまでにこのペットボトルを回収しなければならない。

問題点があった。今は巣鴨駅。

ここで拾うと持っている時間が長くなってしまう。やめよう。

まだある。ここでそのペットボトルがあるところに人が立ってしまった場合。

それは確実に拾えなくなってしまう。

では反対側に移動しようか。

いや、移動してしまうと拾う時に自分のいる場所から回収することになるから、

周りの人はただ自分のゴミを拾ったと思う人もいるかもしれない。

私のスタンスはあくまで、“誰かのゴミを拾ってあげる“という善意のもとである。

移動するのはやめよう。


そんなことを考えていると田端駅に到着してしまう。

田端駅になると今まで反対側のドアが開いていたが、

こちら側のドアが空いてしまう。

こうなると、風で飛ばされてしまうかもしれないし、

別の人が拾って行ってしまうかもしれないという可能性が出てきた。

平然を装いながらペットボトルに祈りを捧げる。

「このペットボトルは私に捨てさせてください」

幸いなことに田端駅では誰も降りずに、風で飛ばされることもなかった。


次は目的地の西日暮里駅。

田端駅から西日暮里駅は1分もしないうちに着いてしまう。

どうこのペットボトルを回収しよう。

まずドアが閉まると手すりから離れ、降りるドアの真前に立った。

これで、“次に私は降りますよ“という意思表示を周りに知らせる。

そして駅に近づくにつれ、徐々に前屈みになる。

これでペットボトルを拾う準備は完璧だ。


しかしここで思わぬ敵が現れた。

駅に到着時にブレーキをかけた際に少し電車が揺れるのだ。

今まで手すりに寄りかかっていたから気づけなかった。

私は今、前屈みになっている。

このままでは足元を崩して転んでしまう。

だが、前屈みを止めるとペットボトルがスムーズに拾えない。

もう到着してしまう。その時に左手が勝手に動いた。

そう、手すりだ。今まで寄りかかっていた手すりに手をかける。

私は転ぶことなく、駅に到着し、ペットボトルを拾う。

西日暮里駅に足を踏み入れた時私はミッションを達成した。


そう思ったその時、ある違和感に気づく。

“空のペットボトルにしては重量感がある“

そう、空のペットボトルだと思っていた中にはまだ中身が残っていたのだ。

ラベルで隠されいて気づかなかったのだ。

仕方なく、その中身を飲み干してゴミ箱に捨ててミッションコンプリート。


いいことをした時の空は少し晴れているようにも見えた。

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