第5話

 討伐任務はアーシェの独壇場だった。


 それは当たり前な話である。


 ゴブリンの討伐、スライムの討伐、ゴーレムの討伐、他にも猫型モンスター、犬型モンスター、山賊一団の蛮行をとめるために一味を全員たおしたり、アーシェの剣の腕前は凄まじいというのが正直なところである。


 俺は、フロストドラゴンの卵を一応返されて、それを戦力にしようと四苦八苦している。


 実際のところ、俺はアーシェにくっついているだけのいわば金魚の糞のような冒険者だった。


 それ以外に、アーシェと一緒にいて、分かったことがある。


 それは、討伐任務の最後、ゾンビの集団を倒す際に俺はアーシェの胸のところに倒れ込んだ。


 ただ同姓どうしだからなんてことはないが、俺は胸の柔らかい感触を感じてしまった。


 そう。


 アーシェは女だったのである。

 

 俺はそれからというもの、アーシェに謝り、何とか許してもらったのも束の間、冒険者の団長、冒険者ギルドのトップに話があると呼び止められる。


 「あの、話っていうのは何でしょうか」


 「君がここに来てから、三か月が経過した」


 淡々とした声には、幾分かの落胆が含まれていたように感じる。


 「はい」


 俺はその言葉のトーンから言外に含まれている、戦力外通告の意味を受け取り、歯噛みしながら頷く。

 

 フレアだって、冒険者としてうまくいっているらしい。


 アーシェももちろん、冒険者として、筆記試験を克服(つまり一夜漬けの勉強)できたから、俺よりはるかに上だろう。


 「その卵は、一応、君が所有するということになっている」


 「はい」


 「…………君に一つ、提案がある」


 「…………なんでしょうか」


 「冒険者はあきらめたほうがいい、その卵をいい値段で私たち冒険者ギルドに売ってくれないだろうか」


 「—————っ」


 俺は思わず拳を握りしめる。


 「でも、待ってください、もう少しだけ、もう少しで、心を通わせることができる気がするんです」


 「あてにならないよ、それは」


 だってとか、でもとか、俺にはいろいろな夢があったんだ、ようやくその夢の始まりを気づいた気がした。


 なんとか俺が言い訳を考える。


 すると、卵が入っている袋が青白く光り出す。


 「なんだ!」


 モヒカン頭の男とアーシェが入ってきて何事かと騒ぎ立てる。


 ——————我の声が聞こえるか。


 「この声は、誰だ」


 「一体、君は何と会話しているのですか!?」


 ギルド長の声も耳に入らないほど、俺は頭が痛くなる。


 頭痛がする。


 やがてその頭痛は大きくなり、一つの声になる。


 ——————我は長きにわたる眠りから目覚めた。それは貴様のおかげだ。

 ようやく目覚めることができる。ようやく。


 そこまでの声が聞こえた後、卵が割れる。


 そこで俺の意識が途絶える。


 ※ ※ ※


 フレアは冒険者人生を謳歌していた。


 学内、学外問わずに友人もできた。


 ただ、マイキーのことが気がかりだった。


 ある日、マイキーが消えたのだ。


 フロストドラゴンの幼体が孵化した代わりに彼の姿がぽっかりと消えたのだ。


 フレアは悔しかった。

 

 その場にいなかったことに。


 だが、フロストドラゴンの幼体と彼女はなぜか会話することができた。


 ――――――っフレア、俺だ、マイキーだ。


 「マイキーなの、一体どうして……」

 

 彼曰く、フロストドラゴンだった卵には死者の魂が封印されていた。

 

 そして、その命が成仏する条件として新たな命として、マイキーはフロストドラゴンとなったのだ。


 「これでやっと君の役に立てる」


 そして彼はフレアの右肩に乗り、彼女に懐く。


 「そう、そうだったの。おじさんも言っていたわね」


 ———————冒険に、予想外はつきもの。


 竜になった彼と彼女の冒険がようやく始まる。


 それは誰にも予想がつかない物語。


 そしてフレアのカバンの中にはもう一つ新たな卵がどこからか入っている。


 マイキーが運んだのか、それとも。


 ——————FIN?

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朝食に卵を割った俺は。 ビートルズキン @beatleskin

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