第9話 叱咤と飴
無事にツーブロック先のシェルターに着いた頃には先輩と合流できたのだが。
「民間人に運転させるなんて何やってるんだ!!」
「……すみませんでしたっ」
シェルターの入り口。安全のために外界と遮断するシャッターが下りたそのすぐ脇。
「謝って許されることじゃないんだぞ! この装甲車には武器だって搭載しているんだ。もし誤った操作でもしたら装甲車の周りにいる市民が危なかったんだ! そのリスクを考えたのか?!」
「考えて、ませんでした……」
頭を下げて謝る自分に、しかし先輩が顔を上げて目を見て報告をしろと肩をどつく。
多少よろめいてじんわり痛む肩を押さえた。
「他の隊員に運転を頼めばよかったろうが!」
「自分以外の隊員が駆け付けられる状況では……」
「僕が最初に指示した内容は覚えているか。お前が運転しろと言ったんだっ」
「自分には一切の運転経験がなく…もし操作を誤れば……」
言い訳を連ねていく。悔しさは募るばかり。
的確に指摘されて、その度に自分の不適切だった行動を叱られる。
「ならお前は民間人に人を殺すことを強いるのか」
「……いえ! そんなことはっ――――」
「同じ意味だろッ!!」
言葉は刺さっていく。正論だから、何も言い返すことは出来ない。
先輩が怒っていることをはっきりと区別していえば、民間人に車を運転させたことじゃない。
自分が、国防隊員が、民間人に装甲車を運転させてことによって殺人をさせたかもしれない可能性を背負わせたこと。
「運転した民間人もお前も! どっちも経験がない人間だッ! なら国防隊員として責任を持つ行動をしろよ!!」
そう。その責任は本来、国防隊が持つべきものだ。
語尾が強くなる度に肩を次々とどつかれ、徐々に後退していく自分を追うようにまた、先輩も距離を詰めていく。
「学校で習ったことだけじゃ現場での行動は難しいと確かに言った。でも民間人を巻き込めとは言ってない。危険な行動をとれとも言っていない」
先輩の声は次第に収まっていくが熱は冷めていない。その熱を心の内に閉じ込めて、自制しているのか。
呑気に考えている暇などないというのに。
「――――お前は学校で何を習ってきたんだ。何のために国防隊員になったんだよ」
「っ、」
ただ核心をつく問いかけに応える暇を与えられるわけもなく、先輩は自分の事を壁に勢いよく押し付けると離れて行った。
いや、たとえ答えるまでの時間が与えられても先輩が求めるようなものを自分には出せない。
なんの目標も持っていなかった学生の身分だった自分はその環境に甘えていた。
他の学生と自分を見比べては、特に後れを取っているなどを感じることもなく。平均を維持していればそれでいいだろうと思っていたほどだ。
だからこそ、何を言おうが先輩に言い返せるほどの理由は持ち合わせていなかった。
何のために国防隊員になったのか。
きっとこれからもその問いを、今まで以上に突き付けられるだろう。
先輩は一体何故この国防隊員を仕事に選んだのか。
今少しだけでも教えて欲しかった。それで何かが変わるのかと言われれば、それは不確かだ。
と、先輩が消えたその向こうの廊下から常盤上官が現れた。壁に寄り掛かっていた体を起こし、敬礼する。
「立浪、聞いたぞ。一般人に装甲車を運転させたと」
「はい。間違いありません」
「……ふっ、私は責めていない。むしろ良くやった、と言いに来た」
「え……?」
自分の方に手を乗せた上官はポンポンと叩いてきた。
「確かに危険行為ではあった。しかし結果として市民は無事、このシェルターへと避難出来た。初日にしては張り切り過ぎだが、立浪が市民の為に頑張ったんだ。私のパートナーとして、これから頑張れ」
上官として本来𠮟るべき立場にある常盤上官だが、既にこっぴどく先輩に絞られている様子を見ていたのか。先輩が鞭なら上官は飴だろうか。
まあなんでもいい。そう言い残して消えた上官のその言葉に救われた気がした。
フロウズ・ゲート 知㋶ぬ間² @siranumano
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