第2話 頼まれた夕日


夕希ゆきを迎えにきました」


 僕、白玖斗はくと。小学校五年生。

 小学校の近くの幼稚園に妹の夕希ゆき三歳を迎えに来ている。


 ちょっとぽっちゃりめの紫先生が、パタパタと奥から玄関に向かって走って来てくれたけど……


「白玖斗君ごめんなさいね〜。夕希ちゃんさきちゃんと遊んでいて今から準備するからちょっと待っててくれる?」


 どうやら夕希は、最近仲良くなった咲ちゃん(三歳)と遊ぶのに夢中だ。


「はーい」


 僕はいつものように玄関に座って夕希を待つ。

 

 今日は冬のどんよりした雲もなく天気が良かった。僕らの帰り道には坂道があるんだけど、そこから見る夕日はとても綺麗なんだ。


 今日は夕日みれるかなぁ。


「はくにいちゃ!」


 準備の出来た夕希が元気よくトテトテ走ってくる。笑顔の夕希を正面からポスッと捕まえて、コートのフードを被せる。


「夕希楽しかったか?」


「さきちゃといっぱいあそんだの」


「そっか」


 夕希の頭をなでながら立ち上がり、見送りに来てくれた紫先生に挨拶する。


「先生さようなら」「さよーなら」


 二人で礼をして笑顔の紫先生に手を振る。


「気をつけて帰ってね」


 紫先生も手を振りながら、手を繋いで歩く僕らが見えなくなるまで見送ってくれるんだ。


 雪がうっすら積もった道を僕はゆっくりゆっくり歩いて、夕希はちょこちょこ歩く。楽しかったのか夕希は何をして遊んだのか教えてくれる。今日は追いかけっことかくれんぼをして遊んでいたみたい。


「はくにいちゃ。さきちゃともっとあそびたい」


「そうだなぁ。…… ほら夕希、みてご覧。夕日さんもおうちに帰って暗くなっちゃうだろう?だから夕希も今日は帰ろうな」


 丁度坂道の綺麗な夕日が見えたから、夕希にもみてもらおうと思って言ったんだけど


「はくにいちゃ。ゆーひさんかえらなきゃもっとあそべる?ゆーひさんちゅかまえて」


 …… また夕希の答え辛い質問が来てしまった。


「えーとそうだなぁ…… 夕希ちょっと抱っこいいか?」


「だっこー」


 僕は時間稼ぎをする為に夕希を抱っこする。かがんだ時、僕のコートのポケットにあるものが入っているのがわかった。なんでこれ入ってるんだっけ?


 ちょっと考えていたら、夕希は抱っこが好きだから両手を広げて僕を見上げている。あ、ごめん夕希。


「よっと」僕は掛け声を上げて夕希を抱き上げる。


 あ、いい事思いついた。


「夕希?夕希はいっぱい遊ぶと疲れるだろう?」


「うん」


「夕日さんも、みんなの為に一日いっぱい動いて疲れているから、休ませてあげないといけないんだ。夕希は疲れている時遊びたいっていわれたらどう思う?」


「いやなの〜」


「そうだね。だから夕日さんは捕まえられないけど、夕日さん少しの時間なら捕まえられるよ」


「ゆーひさんだいじょぶ?」


「挨拶する時間はあるんじゃないかな。夕希片手を出して」


 キョトンとしながら片手を出す夕希。

 あ、ミトンの手袋だと落ちちゃうな。


「夕希、ごめん。一旦下ろすよ」


 僕は夕希を下ろして、夕希と同じ目線になるようにしゃがみ込む。自分の手袋を外して、ポケットに入っているものを出して夕希と一緒に覗き込む。


「はくにいちゃ。これなーに?」


「おっきい透明なビー玉って言うんだ。夕希、ビー玉から夕日さん見てご覧。面白いよ」


「にいちゃ!ちいちゃいゆーひさん!」


「そうだぞ。少しの時間夕日さんに帰るの待ってもらっているんだ。ほら、夕日さんよくみると逆さまになっているだろう?」


「さかしゃま?」


 口が上手く回らない夕希には逆さまはわからないか。


「夕希。本物の夕日さんは海の上にあるだろ?捕まえた夕日さんは海が上にあるんだ」


「ほ〜」


「さ、今のうちに夕日さんにまた明日って挨拶出来るぞ」


 夕希は素直にビー玉に向かって「またね〜」と手を振って僕を見上げる。


「じゃ、夕日さんを戻そうか」


 僕はコートのポケットにビー玉を戻し、もう一度夕希をだっこし夕日を見せる。丁度海に沈む瞬間の綺麗なオレンジが、海を空を染めていた。


「はくにいちゃ。ゆーひさんもかえる?」


「うん。だから僕らも一緒に帰ろうか。ばあちゃんとじいちゃん待っているしな。今日は夕希の好きなカレーって言ってたぞ」


「かれーなのー!」


 今日もなんとか夕希の質問を乗り切った僕は、上機嫌な夕希を抱っこしたままゆっくりと家に向かう。


 夕日が完全に沈み辺りが薄暗くなる頃、僕らは家に着く。


「ただいま」「いまー!」


 ドアを開けたらカレーの匂いが迎えてくれた。

 ばあちゃんにビー玉のお礼言わなくちゃな。

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白玖斗と夕希 風と空 @ron115

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