白玖斗と夕希

風と空

第1話 おかえり 冬の匂い

 しんしんと空から降る雪。

 音がないのに「しんしん」って変なの。

 いつからこんな言葉がピタッとくる様になったのかな。


 真上を向くと、ふわふわ綺麗に落ちてくる雪。


 冬になったんだなぁ。


白玖斗はくと〜!さみーよ!帰ろうぜ」


ゆう君、上見なよ。綺麗だよ」


「ただの雪じゃん。いいから帰ってゲームやろうぜ」


 今、僕らは小学校の帰り道。

 お隣の有くんとは一つ違いだけど、よく遊ぶんだ。


「有君、今日は妹迎えにいかなきゃ行けないんだ。明日遊ぼ」


「なんだ、夕希ゆき迎えに行くのか。しょーがねぇなぁ。じゃ、また明日遊ぼうぜ!」


「うん。またね」


 有君に手を振って、僕も夕希のいる幼稚園に歩き出す。

 幼稚園は小学校からすぐ近く。


 普段はじいちゃんかばあちゃんが迎えに行ってるんだけど、今日はお母さんが仕事遅くなるし、じいちゃん腰を痛めるし、ばあちゃんご飯作るし、で僕が行く事になったんだ。


 幼稚園から家までも近いからね。


 僕は落ちてくる雪を手のひらで溶かす遊びをしながら、幼稚園に着いた。


 幼稚園の入り口で雪を落としていたら、夕希の担任のゆかり先生が丁度出て来てくれたんだ。


「白玖斗君!お迎えありがとう。今夕希ちゃんの支度してくるからちょっと待っててね」


 紫先生はぽっちゃりしていて、近くにくるといい匂いがする優しい先生。夕希の大好きな先生なんだ。


 でも幼稚園ってやっぱりなんか優しい匂いがする。赤ちゃんの匂いかなぁ。


「はくにいちゃ」


 あ、夕希が来た。トタタタタ……っと走って入り口に座っている僕の背中にポスッと抱きついて来る。


「お待たせ〜って、またお兄ちゃんにくっついてるのね」


 紫先生も見送りに来てくれた。

 くっついている夕希をはがすとほんのりとストーブの匂いがした。あったまってたんだな。


 夕希に手袋しっかりはめさせてから手を繋いで挨拶する。


「紫先生さようなら」


「さよーなら」


「はい。気をつけてね」


 笑顔の紫先生に手を振って、夕希と歩き出す。


 夕希はまだ小さいからトコトコとゆっくり歩く。

 雪がまだ降ってくるから、フードを被せて僕もゆっくりゆっくり歩く。


「はくにいちゃ、ちゅめたいね」


「そうだね。雪だからね」


 夕希は顔に付いた雪を片手で払う。

 そして始まる夕希の質問タイム。


「ゆきってなあに?」


「ええとね。夕希が好きな本に妖精さん出てくるだろ?雪の妖精さんが冬だよ〜、寒くなるよ〜って教えてくれているんだよ」


 僕は最近夕希の質問に答えるのに、頭をフル回転させる。

 出来るだけ、夕希には夢を持って欲しいから。


 でも結構苦労してるんだ。


「ようせいしゃん、いる?」


「そうだよ。夕希にも降ってきている雪見えてるだろ?」


「あのね〜、ゆかりしぇんしぇ、いいにおい。

 はくにいちゃも、いいにおい。

 ようせいしゃんもいいにおい?」


 ウッ…… きた!夕希の不思議な質問。

 匂いかぁ。考えたことないよ。でも……


「夕希、ちょっと上を向いて匂い嗅いでごらん」


 僕は夕希を抱き寄せて、上を向かせる。


 ぷー……

 

 あ!はなちょうちん作ってる。寒かったんだ。

 ティッシュ、ティッシュ!


 ぶーーーっ


 ふう…… もう垂れてきてないな。

  家までもう少しだし抱っこしていこうか。


 「夕希抱っこしてあげる。おいで」


 「だっこ〜」


 僕にしっかりつかまって上機嫌な夕希。


 重くなったなぁ。

 でも、夕希抱いてるとあったかいや。

 

 「においしない」


 僕にしっかりつかまってからまた匂い嗅いだんだな。


「夕希、妖精さん恥ずかしいんだって。近くにいないと匂いってわかんないだろ」


「うん」


「今度近くまでおいでって、大丈夫だよって言ってみよっか」


「うん!」


 良かった。何とかなった。


 でも、雪…… そもそも冬ってそんなに匂いしないよなぁ。

 ばあちゃんに聞いてみよっかな。


 そのうちなんとか家についた。

 夕希を下ろして、家のドアを開ける。


 ガチャッ


「ばあば〜」


「ただいま〜」


 僕がドアを開けたらトコトコと夕希が入って行く。

 あ、夕希!ちゃんと雪落とさないと!


「ゆーちゃん、白玖斗おかえり」


 僕が夕希に積もった雪を落としていると、二枚タオルを持ったばあちゃんが出てきてくれた。


 パサッと僕にかけてくれてから、ばあちゃんは夕希をタオルで包み込む。


 うわぁ、フカフカであったかい。

 ばあちゃん僕らのためにあっためてくれてたんだな。


「ほおら、早く拭かないと風邪ひいちゃうよ」


 ばあちゃんが夕希を拭いてあげながら、僕を心配してくれる。

 

 あ、そうだ。雪の事聞いてみよ。


「ばあちゃん、あのね…… 」


 僕が説明し終わると、ばあちゃんは笑顔で僕の頭を撫でてくれた。


「白玖斗、良いこと言ったね」


 そして夕希に向直って、ばあちゃんは話し出す。


「ゆーちゃん、雪の精霊さんは積もったら匂いがわかるよ。明日一緒に朝確認しようね」


 夕希は不思議そうにしてたけど、ばあちゃん上手い!


 僕は積もった雪の日の鼻がツンと冷たくなるあの空気を思い出す。


 気持ちいい透きとおった匂いだね。

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