図書室の太陽
本を読むことは僕の趣味だった。
別に1人が好きだからだとか、運動が苦手だからだとか、そんな理由なんかではなく。
ただなんとなく、本を読み終えたあとの穏やかで緩やかな時間が好きなのだ。
今日も空きコマを使って図書館に来ている。
二階の窓際の席、ここは僕の特等席だ。
考えるだけで嫌気がさす5限の授業も、ここに来られるのならばアリなんじゃないかと思ってしまうほど、窓からの夕陽が心地よいのだ。
活字というものは、もっと言ってしまえば紙というものは、夕陽との相性が抜群に良い。
本の世界に集中しているときは気付かないが、オレンジ色に染まった文字が美しい。
最近の女子の言葉をあまり理解しているわけではないが、これこそ映えるということだろう。
今日も棚からお気に入りの小説家の文庫本を持ってくる。パラパラと前回まで読んでいたページを探し読書を開始する。『館内はお静かに』と注意書きされているだけあって、空調の音だけが耳に残る。
それは偶然だった。時計を見るためだったか、はたまた疲れた目を休めるためだったか、詳しくは覚えていない。とにかく、顔をあげたときに君は僕の視界の中にいた。向かいの席の2つ横の席。決して近いとは言えず、かといって遠いわけでもないところ。そこで彼女は気怠げに本を読んでいた。
綺麗だと思った。
気付けば君のことをずっと見ていた。
名前も知らない君のことを。
端的に言えば、それは一目惚れだった。
西日に照らされる君の髪に触れてみたいとさえ思った。
どれほどの時間が経ったかは明確に思い出せない。ただ覚えているのは、悪友の連絡によってこの時間は終わりを告げた事だ。
携帯を見る。画面には次の授業の座席を心配する友人からの文面が光っている。
僕は急いで本棚に本を戻し、声をかけるか少し迷ったが、不審者になる事を恐れて駆け足で次の教室に向かった。
あの子はまたあの場所を訪れるだろうか。
僕はあの特等席が、また少し好きになった。
短編集 貴方と私 @you-and_me
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