第26話 不死鳥大爆発

「ワシはシゲン。モーラの軍師である。貴殿らは既に袋のネズミ。潔く、投降されたし」


 中々に堂に入った投降勧告が出来たと思ったのだが、いささかやりすぎてしまったのは否めんなあ。

 これは燃えすぎだ。

 可燃物の量を間違えたかね?


 だが、しかし、過ぎたことを考えても無駄だろうて。

 戦いとは二手、三手先を読んでこその軍師である。

 そうでなくては軍師ではない。


 このままでは折角、手中に収めたネギを背負い、タレと出汁を持ったカモが黒焦げになってしまうではないか。

 いや、それは最悪、焼きカモでも仕方ないとしてだ。


 取り残されたドリーも同様の運命を辿るのが問題なのだよ。

 あの娘、毎晩のように化けて出てきそうだからなあ。


『シゲン。それは違う。三日に一回』

「そうかそうか。おお?」


 離れた場所にいるのにまるで耳元で囁かれているようにドリーの声が聞こえたぞ!?


『私とシゲンにはがある。戦乙女とエインヘリヤルはそういうもの。知らなかった?』

「知らんわ! 説明されておらんぞ」

『シゲン。私は説明した。聞いてないのが悪い』

「ドリー君。君は悪徳借金取りかね?」

『シゲン。重要なことを伝え忘れた。口に出すと独りで喋っている変なおっさん。ひっーひひひひっ』

『そういうことは先に言ってくれんかね』


 ドリーのヤツ、楽しんでいるとしか思えんなあ。

 そのようなことをしている時間的な余裕はないのだが、いいのかね。


『シゲン。お前には力がある。念じよ。祈れ。願え。それが答え』

『ええい。無理難題を仰るでないぞ! やれば、いいのだね!』

『それでいい。シゲン。思い切り、やるがいい』


 困った時の神頼みでもすれば、いいというのだろうか?

 ワシは神も仏も信じておらんのだよ。

 孔明は違ったがのう。

 あいつの考えの奥底には仏の教えがあった。


 なるほどのう。

 神だの仏だのは信じられんが、あの小娘ドリーを信じてみるとするかね。


 その瞬間、頭の中を稲妻が走ったように閃いたのである。

 この閃きを信じようではないか。

 あまり信じたくない内容ではあるが、何よりも時間がないのだ。


 まず、足を両肩の位置まで開き、深呼吸をする。

 この際、口と足で世界の気というものを感じ、取り入れる想像をする。


 これが重要らしい。

 この時、瞑想するように目を閉じるのが肝のようだなあ。

 何をやらされているんだ、ワシ。


 そして、両の掌を胸の辺りで合わせ、合掌。

 全身に気が行き渡ったのを感じたところで掌を離し、前腕を胸の辺りで十字を描くように重ねる。

 目を開くと同時に重ねていた前腕を離し、天に掲げるように両の掌を大きく上げる。


 見えた!

 ドリーが地面に組み敷かれて、まさに貞操の危機になっておるではないか。

 なんということだ。

 この期に及んでもそう出るのかね。

 そうかね。

 ワシ、怒ったよ。


 ワシの身体が紅蓮の炎に包まれておる。

 不思議なことに全く、熱くない。

 むしろ心地良い気分だ。


 今のワシには何でも出来る気がするぞ。

 「軍師殿! 危ないです」と周囲の慌てる声が聞こえたが、ワシは気にせず、楼閣から勢いよく、飛び降りるのだった。


充実した輩どもよ、爆ぜろフェニックス・ダイナマイト

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