第27話 龐統、爆発する①

(三人称視点)


 龐統がフェニックス・ダイナマイトを使った。


 その瞬間を目撃したのは現場に居合わせたモーラの名も無き兵だ。

 攻め寄せてきたエルヴダーレンの兵を迎撃すべく、龐統と共に楼閣に上がっていた弓の腕に自信がある者達である。


 彼らは信じられない物を目撃したショックにより、一時、心神喪失になったほどである。

 それほどに凄まじい光景が繰り広げられた。


「ああ。大きな星が落ちて来たんだ。わっははは……ああ。大きいんだ。彗星かな? 違うな。彗星はもっとこうドッカーンてなるもんな! わっはははは」


 弓兵Aは焦点の定まらない虚ろな瞳でこう証言したという。


「暑いよ。暑いなあ。おーい、誰か! 助けてくださいよ! ねえ! 誰か!」


 弓兵Bはそう叫びながら、全ての服を脱ごうとしていた。


 幸いなことに彼らがおかしくなっていたのは、一時的なことに過ぎなかったことだ。

 戦後、短期間の療養で全員が日常生活を取り戻したことを追記しておく。




 それではその場に居合わせ、見てしまった者が常軌を逸する光景とは一体、何だったのだろうか?


 紅蓮の炎に包まれた龐統は「充実した輩どもよ、爆ぜろフェニックス・ダイナマイト」と叫び、楼閣から飛び降りた。

 比較的、精神状態の安定していた者はこう証言した。

 その姿は伝説に謳われる不死鳥――火の鳥のように雄大で美しかったと……。


 空を羽ばたくように炎の鳥と化した龐統が地面と挨拶をした瞬間、彼を中心とした大きな爆発が発生した。

 さながら小さな星が落下したかのような衝撃と土煙は、尋常ではなかった。

 爆風も凄まじいもので炎の嵐ファイアストームになりかけていた広場の業火を、一瞬でかき消したのである。


 ゴンドゥルの目論見通り、龐統は見事に消火を成し遂げたのだ。

 ただし、彼らが考えていたのよりもずっと強引な方法で被害が大きかった。

 それだけなのである。


 楼閣から躍り出た炎の鳥の雄大で恐ろしい様は、ゴンドゥルを組み敷いていたエーリクとエルヴダーレンの兵が動きを止めるのに十分なものだった。

 龐統にフェニックス・ダイナマイトを使うよう唆した当の本人であるゴンドゥルすら、普段は無表情な顔に動揺の色を浮かべ、「シゲン。やりすぎ」と呟いたほどだ。


 結果として、不死鳥の大爆発で生じた衝撃波で彼らは敵味方の区別なく、全員が吹き飛ばされていた。

 これも不幸中の幸いと言うべきだろう。


 全員が急ごしらえの壁に叩きつけられ、気を失ったものの多少の打撲程度で済んでいる。

 もっともエルヴダーレンの兵にとっては全員が、虜囚となったので不幸なだけだろうが……。


 しかし、モーラの兵が一時、恐慌状態に陥ったのはこの次に起きたことが原因である。

 爆炎と煙も徐々に収まり、彼らが目にしたのは信じられない物だったのだ。

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