第25話 戦乙女の想い
(ドリー視点)
シゲンから、指示されていた通りにモーラを駆け巡った。
血走った目で私を追ってくる敵勢と付かず離れずを保ちながら、隘路と化した街中をジグザグに進まなくてはならない。
思っていた以上についてきたのでシゲンも喜ぶだろう。
シャーナは賢く、疲れを知らない。
本当にいい子。
シゲンが選んだ決死隊の面々もちゃんとついてきてくれる。
この全てが計算
恐らく、是と言う。
それでいて、簡単に手放すのは解せない行動だけど。
「そろそろ持たないか」
この体でいられる時間はそんなに残っていない。
小さな体に戻る前に決着を付けなくては……。
幸いなことに指定された終着点に到着出来た。
シゲンはその時間すら、把握していたとでも言うのだろうか?
タイミングが絶妙。
まさかとは思うけどあの男ならば、ありえなくもない。
本当に面白い男。
私は軍旗を手に一人、英雄となる可能性があった男と対峙している。
彼だけではない。
ざっと見たところで百人はいるだろうか?
囲まれているので逃げ場はない。
舌なめずりをして、じりじりと間合いを詰めてくる様は野盗の類に良く似ているではないか。
騎士道を語れる顔には見えないが、着ている鎧からそれなりに高い身分であるのは確実だろう。
さて、囲まれて逃げ場がないのは私?
本当に?
「選ばれし者でなければ、死の先を行くことは出来ない」
シャーナと決死隊の面々を巻き込みたくなかった。
いくら賢い子とはいえ、これから始まる紅蓮のショーは耐えられない。
決死隊の面々も同様だ。
だから、終着点の手前で退避してもらった。
シゲンはその為に人力で稼働する動く街路までこさえさせたのだから、本当に恐ろしい。
味方であれば心強いが敵に回したくはない。
「さあ。味わうがいい」
軍旗を掲げるのが合図だ。
風を切る羽根の音と共に私と奴等の周囲に盛大な火柱が上がった。
天をも焦がす勢いとでも言うべき。
熱い。
肌を出しているから、当然だが……。
肌を晒したいから、そうしている。
そこに意味があるとすれば、私が激しく満たされるというだけだろうか。
「シゲン。やりすぎではないか?」
これはもう威嚇の領域を越えている。
さながら爆炎の嵐。
桶に組んだ水をかけたくらいで収まるとは思えない。
これも計算
「ワシはシゲン。モーラの軍師である。貴殿らは既に袋のネズミ。潔く、投降されたし」
堂々と現れたシゲンの声が風に乗って、響き渡った。
遠目に彼の顔が見えるが、眉根が微妙に動いたのを見逃す私ではない。
戦乙女の目を舐めてもらっては困る。
さては火力を計算に入れていなかった?
案外、抜けたところがあるものだ。
だからこそ、人間という生き物は面白くて、愛すべき存在。
姉様が言っていたことを朧気に理解した。
まぁ、いい。
過ぎたる火遊びの不始末は
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