第10話
『ドドドドッ!』
怒涛のキック。止まることのないキックの嵐。
それをうずくまってガードするなか、私はこの場を利用した戦法を開始する。
…………それは、剣の鞘を投げること――
『ブンッ!』
だが、目の前の対戦相手、サーマスにではなく、さっきからヤジが飛んでくる左のほうへ投げた。
『バシッ!』
「「いたっ!」」
「なっ!」
何人かの悲鳴があがる。と、サーマスの動きが一瞬止まる。
それはそうだ。一体一の勝負で、自分ではなく、自分たちのファンが攻撃されたのだ。驚くのが普通。
ましてや、この時点でルール違反。
けれど、日本にはこんな素晴らしい言葉がある。
「どんな手を使っても勝てばいいのよッ! 勝てば!」
自分に言い聞かせるように叫んで、剣を地面に突き刺した。
そして、繰り出すは、
「殺人剣技"
勢いよく、剣を突き上げた。
『ドバッ!』
その勢いで、地面の土がサーマスの顔を襲う。
「うわっ!」
狙い通り、目に土が入ったのだろう。視界を塞がれたサーマスは、武器を持ってないほうの手で目を擦っていた。
その隙に、
『スパンッ!』
弓と矢を真っ二つに斬った。
こうなれば勝負は私の勝ち。
「…………ぐっ、卑怯だぜ!」
サーマスが涙目になりながら、私を批判した。
「そうだ! 卑怯だぞ!」
「そうよ! そうよ!」
「ちょっと! あんたのせいで腕が赤く腫れたじゃない!」
周りも私に敵意剥き出しで、盛大に批判した。
けれど、私は剣をブンブンと振り回し、
「うるさいわね! 卑怯でも、なんでも、勝てばいいのよ、勝てば!」
言いたいことだけを口にして、周りを黙らせた。
「…………」
しかし、静かになったと思ったら、パンチャーが、サーマスに謎の助言をした。
「サーマス! 状態2だ! 状態2を使え!」
「なっ!」
「…………?」
サーマスは、パンチャーの助言に驚いていた。が、私にはなんのことだかわからない。
状態2? なにそれ?
困惑する私をよそに、サーマスがパンチャーの助言を否定した。
「…………いや、ここで状態2を使うのはまずい! 周りを巻き込んでしまう!」
しかし、パンチャーが身体を細く伸ばして、私を指さした。
「なに言ってんだよ! そんなのとっくにあいつが巻き込んでるだろ!」
「あ、そっか」
サーマスが納得する。
「それに、危なかったら、こいつら勝手に避難するだろ!」
「…………そうだな! よし、やるか!」
サーマスが状態2とやろを実行するらしい。
…………まあ、おおかた、弓がないから、残っている背中の矢筒に入った矢を剣みたいに使うとかだろうけど。
『ゴキッ! ゴキゴキッ!』
「なっ!」
ありえない。骨が砕けるみたいな音が鳴り響くと、サーマスの体格がどんどん良くなっていく。
先ほどとは、まるで別人。
目の前にいる男は本当にサーマスか?
サーマスはたった一瞬で、身長まで伸びて、筋肉質なマッチョ男になってしまった。
すると、別人に変貌を遂げたサーマスに、周りから歓喜の声があがった。
「「出た! デーモンを倒したときの必殺技!」」
「なっ! これが必殺技!?」
「悪いなリーダー! 状態2になった俺は無敵だ!」
『ドンッ!』
一瞬で、サーマスの姿が消える。
「後ろだ!」
その声に振り向いたときには、既に遅かった。
『ドガッ!』
右ストレートが私の顔面に直撃。
「カハッ!」
一瞬で、視界が真っ暗になっていく。
上体が後方へ。しかし、またもや後ろに先回りされて、腰を足蹴り。
『ドガッ!』
「ぐうううッ!」
まるで、サッカーボールのように数メートルぶっ飛ばされてしまう。
私は、地面に横たわって身体中の痛みに耐えるしかなかった。
…………ただでさえ、速かったのに、さっきよりもっと速くなってるし、しかも、筋肉がやばい。
攻撃、一発、一発が鉛みたいに重い。
痛くて、立ち上がることが出来ない。
サーマスが私の目の前に来て、挑発してきた。
「おいおい、こんなもんかよリーダー!」
「ぐっ…………」
言い返すことも出来ない。
肉体的ダメージもあるけど、それ以上に、圧倒的な身体能力の差。
格下に負ける劣等感。
"絶望する"とは、このことだろう。
「ん。…………なんだこれ?」
『ジャラッ』
サーマスが倒れている私の首にかかった首飾りを掴んだ。
私は声を絞り出して、忠告した。
「…………そ、それに触るなザコ!」
しかし、サーマスが声を荒らげて、
「…………はあ、あんたのほうがザコだろ? ムカついたぜ、引きちぎってやる!」
『ブチッ!』
力任せに首飾りを引きちぎりやがった。
地面に散らばる首飾り。
甦るは、シン王子がくれた言葉。
"この首飾りはさあ。願いが叶うらしいんだ"
とっておきの笑顔で、
"この首飾りをつけて、君の目的が達成出来たなら、俺は嬉しい"
これをくれたのに。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!」
その瞬間、私の理性が吹っ飛んだ。
剣を握りしめ、サーマスに飛びかかった。
『ザシュッ!』
「あッ…………」
しかし、サーマスが無防備な私の身体に矢を突き刺した。
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