第9話

「ワイワイワイ」


「ガヤガヤガヤ」


ナイトパレードに近づくにつれ、増えてくる人だかり。


以前はこんなのじゃなかった。


そして、それ以上に驚いたのはギルド、ナイトパレードの建物。


以前はプレハブ小屋だったのに、今はどこにもプレハブ小屋は見当たらず、代わりに大きな一軒家が建っていた。


屋根には"ナイトパレード"と書かれた看板が設置されている。


ほ、ほんとにここが、あのナイトパレードなの?


『ガチャッ!』


私の疑問に答えるみたいに、一軒家の扉が開いた。


出てきたのは、もちろんあの三人組。


「キャアアアアッ!」


「サーマス!」


「ゼットン!」


「パンチャー様!」


多くの人たちが、三人に向けて熱い歓声をあげる。


げっ、なによ、なんでこんなに人気になってんのよ! キーッ! くやしい!


ハンカチがあったら噛みたいくらい。ジェラシーを感じる私。


するとパンチャーが、生意気にも歓声をあげてくれた人たちに向かって、暴言を吐いた。


「オラッ! 邪魔なんだよテメェら!」


「「キャアアアアッ! パンチャー様! もっと言ってえええ!」」


…………完全にイカれてる。大勢の人たちが大歓声とともに、さらに盛り上がりをみせた。


このふざけた現実を受け入れることができない私は、核爆弾を投下することにした。


「ストップ! ストップ! ちょっと! こんな無愛想な奴らのどこがいいのよ!」


大声で批判すると、その場にいた全員が私を睨んだ。


「ッ!」


さすがの私もこれには少しおしっこちびった。


だって、みんな睨んでくるんだもん。モンスターより、大勢の人たちの冷たい反応のほうが実は怖かったりして。


「「あ! リーダーッ!」」


ゼットンとサーマスが私に気づいて指差す。


すると、周りがザワザワと騒ぎ出した。


「ちょっと! あの人、ナイトパレードの知り合い?」


「この女何者よ?」


ふふん。いいわよ、もっとざわざわしなさい。そして、私に注目しなさい!


私はこいつらより強いのよ!


パンチャーがゼットンの頭上に登り、私を見下ろしながら、上から目線で尋ねた。


「なんだよ、クソアマ! 俺らになんか用か?」


「…………あ、あんたらいったいどんなマジック使った訳!? あんたらが、Aランクダンジョンでモンスターを討伐出来るなんておかしいわ!」


単刀直入に、私の抱いている疑問をそのまま口にした。と、同時に周りから大ブーイングが始まった。


「「ブーッ!」」


「ナイトパレードをザコ扱いするあんたのほうがおかしい!」


「帰れーッ!」


ブーイングに混じって、心無い言葉が飛んでくる。


「もうッ! うるさいわね!」


言い返しても、ブーイングに掻き消される。


…………どうやって、黙らしてやろうか。


そんなことを考えていたら、


「黙れええええッ、クソ野郎ども!」


パンチャーが、大声で暴言を吐いて、一瞬でブーイングを止めた。


「不満があるならよ、一体一のタイマンでよ、ハッキリさせたらいいじゃねえか!」


「タイマン?」


思わぬ展開に、困惑してしまう私。


だって、三対一でも勝てそうなのに、まさか一対一、サシの勝負を向こうから挑んでくるなんて。


「うふっ、最高の展開じゃない。これだけギャラリーが居るのなら、明日の新聞の一面は私かしら」


余裕満々。軽くストレッチしながら、軽口を叩く私。すると、サーマスが弓を取り出して、私の目の前に現れた。


「リーダー! もう俺らは、昔の俺らじゃねえんだ! なめてたら怪我するぜ!」


「あら、たった一ヶ月でずいぶんと生意気になったわねサーマスッ! いいわ、いつでも来なさい、返り討ちにしてあげる!」


私の挑発に周りの人たちの盛り上がりは最高潮に達した。


「おおっ! いけーッ! サーマス!」


「そんな奴ぶっ殺しちまえ!」


その熱気が後押ししたのか、サーマスは、すぐさま弓を引いて、


「いくぞリーダーッ!」


宣言とともに勢いよく矢を放った。


『バシュッ!』


――だが、弓を引くときの矢の角度や向きで、どこを狙っているのかは、おおよそ検討がついていた。


ならば、避けることは容易い。


『バッ!』


すぐさま、ワンステップで横へかわす。


予想通りすぎて、思わず笑みがこぼれた。


「フッ!」


その瞬間、背後から尋ねられた。


「なにがおかしい?」


「え?」


振り返る。そのときには、既に、


『シュバッ!』


矢を剣のように使って、振り下ろされた一撃が私を襲っていた。


「ッ!」


『キイイイイインッ!』


咄嗟に剣の腹で受けた。


以前とは比べものにならないほどのあのスピード。


…………には驚いたが、サーマスの腕力と、武器が矢。というのが助かった――


『ドッ!』


「ガハッ!」


一瞬で、繰り出されたハイキック。


反応することも出来ずに左肩を蹴られ、そのまま地面へうずくまってしまう。


やばい、このスピード。あのミノタウロスよりも速い。


『ドッ! ドドドドドッ!』


ここにきて、怒涛のローキック。


避けることも出来ず、うずくまって両腕で頭をガードする。が、それでもガードする腕や、ガードの範囲外から鈍い痛み。


…………こ、このままだと、負ける。


こいつらがこの一ヶ月で、どうやってここまで強くなったか分からないけど、私だって、この一ヶ月特訓した。


…………なのに、この差はなに?


あの特訓はやっぱり、無駄だった――


「へっ、たいしたことないぞこの女!」


「やっちまえ!」


「ッ!」


周りのヤジが、私を閃かせる。


この手が思いつくなんて、やっぱり特訓は無駄じゃなかったかも。





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