第8話





『ダダダダダッ!』


イケメンから首飾りを貰って、数日が過ぎた。


あれから私は、イケメンのおかげで特訓にも気合いが入った。


その成果として、花を踏まずにダッシュすることまで体得できた。


もちろん、ダッシュのあとは花を踏んでないかの入念なチェックをかかさない。


…………って、あれ、なにこれ?


なんか紙切れが落ちてる。


「ッ!」


こ、これは、もしや一万ゼニでは?


日本でいえば、万札。福沢諭吉ちゃんじゃない。うふっ。


ニヤニヤが止まらない。あたりを見渡して、人気ひとけがないのを確認すると、私はさっそく一万ゼニを財布にしまった。







「フフフンッ! フフフンッ! フフフフーンッ!」


鼻歌交じりに繁華街でお買い物中。


さてさて、思わぬ臨時収入。


…………なにかお買い得な物はないかなあ、っと。


「へい、らっしゃい! らっしゃい! そこ

のべっぴんな姉ちゃん! よかったらゴブリンアイスどう!?」


出店のおばちゃんが奇怪な緑色のアイスを片手に、私を手招きした。


「…………いや、ゴブリンのアイスはちょっと」


ゴブリン肉なら、全然食べれるんだけど、スイーツとなると話は別。


こんなアイス、どう考えても美味しくない。


「ゴブリンがなんやいうの! どこ探しても、ないんやで! レアや! レア!」


「レアって言われても…………」


「ええやんか、一個くらいうてくれても! 姉ちゃんもレアな首飾りつけてるんやし…………。あれ、その首飾り、なんや王子の首飾りによう似とるなあ」


おばちゃんが私の首飾りを指差す。


「王子?」


「姉ちゃん、王子いうたら、シン王子しかおらんやろ!」


おばちゃんがレジに置いてた新聞を掲げて、一面を指差した。


そこには、金髪のイケメンの似顔絵。


こんなに絵が上手な人もいるのね、写真みたい。どう見てもあのイケメンだわ、これ。


…………って、ことはなに?


王子に励まされて、王子に首飾り貰って、王子に気にかけられてるってこと?


え、もしかして将来的には、きさきになったりとか。


ちょっと、どうしよう!?


「ちょっと! 結局ゴブリンアイスはいらんの!?」


「はい! それどころじゃないので!」


「シッシッ!」


あっちへいけと、手で払う動作を繰り返すおばちゃん。ちょっと、それ、すごく腹立つんですけど。


私は、足早に出店を離れたが、


「あ、でもその新聞が欲しい!」


右に左に通行人の多いなかで、おばちゃんに大声で交渉してみた。


「ゴブリンアイス買うてくれたら十枚でも二十枚でもやるわ!」


「ホント!? わかった、ひとつ買うわ!」


「まいど! じゃあ、五百ゼニね!」


アイスが五百ゼニ!


…………ちょっと高いけど、まあ、いっか。


「はい!」


私が一万ゼニを渡すと、おばちゃんがニッコリと笑って、お釣りと一緒にゴブリンアイスと新聞を渡してくれた。









公園のベンチに腰掛けて、新聞片手にアイスを食べる私。


「まずッ!」


何気なくひとくちかじって、スイーツとは思えないほど血なまぐさい風味が口の中全体に広がっていった。


食べれた物ではないので、隣に佇むゴミ箱へポイッ。


「やっぱり買わなかったらよかった」


軽く後悔しながら、手洗い場の水で口をゆすいだ。


さて、気を取り直して、ふたたびベンチに腰掛ける。


新聞の一面、シン王子の記事には、大きな文字で"シン王子、父親のヴァン国王とともにセレモニーに参加"と記載されていた。


「…………」


新聞をめくる。見開きは、


"シン王子、ギルドの差別化を批判。弱小ギルドには強豪ギルドのメンバーをひとり派遣すべき"


"シン王子、噂のゴブリン料理に舌つづみを打つ"


などなど。どこを見渡してもシン王子の記事ばかり。


まるでアイドルみたい。


「…………あれ」


新聞の最後の一面。そこだけシン王子ではなく、見覚えのある三人グループの似顔絵と記事が記載されていた。


"最強のギルド誕生!"


"ギルド、ナイトパレード! 複数のAランクダンジョンで凶悪モンスターを次々殲滅!"


"前人未到! Aランクダンジョン3連覇の快挙!"


「なっ!」


ありえない、私を追い出したあのナイトパレードが賞賛の嵐だなんて。


そもそも、ゼットンもサーマスも私より弱いし、パンチャーは回復要員だし、そんな奴らだけでAランクダンジョンのモンスターに勝てるなんてありえない。


「…………この記事、なんかの間違いなんじゃない?」


けれど、これが本当ならいったいどんなマジックでも使ったのやら。


俄然興味がわいてきた。


私は、一ヶ月ぶりのギルドへ向かうことにした。

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