第6話

「…………ダ」


…………なにかが聞こえる。


「…………ん」


うー。脳みそがグラグラする。


あたま、痛い。


…………ゆっくりと、目蓋を開ける。


真っ先に視界に入ったのは見知らぬ天井。


…………というか、本当に知らない天井だった。


「…………どこ、ここ?」


趣味の悪い赤い天井に、赤い壁紙。


そして、部屋の中に変な金色の石像。


…………これは、スライムの石像?


なんなのよ、この気味の悪い部屋は?


「リーダー!」


「起きたかリーダー!」


次に視界に飛び込んで来たのは、ゼットンとサーマスのふたり。


しかし、このふたりは、なにやらおかしな格好をしていた。


「…………なんで、あんたたち、スライムの着ぐるみなんか着てるの?」


「ちょ、スライムはまずいって、リーダー!」


「…………パンチャー様、怒る」


すると、ゼットンの背後から、ドスのきいた低い声。


「おい! 俺様の名前を言ってみろ!」


ゴゴゴゴッ。


ここで、シワだらけのスライム登場。


たぶん、怒てる感じを出したくて、シワだらけなんだと思う。プププッ。


「おい! 俺様の名前を言ってみろ!」


「うるさいなあ。スライムのくせに!」


「なんだとおッ! やっちまえお前ら!」


パンチャーのひと声に、ゼットンとサーマスが私に飛びかかった。


「悪ぃなリーダー!」


「…………俺たちパンチャー様には、逆らえない」


フンッ。バカな奴ら。私に勝てるわけないでしょ!


返り討ちにしようと身構えた瞬間、ゼットンとサーマスが私の頭上から、なにかをかぶせてきた。


『ズボッ』


「うわっ!」


視界が狭いし、動きづらい。それに息苦しい。


これは、もしかして…………。


自分の身体をベタベタ触る。


「…………この感触。これって、もしかして、着ぐるみ?」


「当たり前だ! てめえもこれから、俺様の傘下に加わるからな!」


「嫌よ、恥ずかしい!」


拒否して、ポイ。


どうでもいい着ぐるみがコロコロと床を転がっていく。


「「「あ"ーッ!」」」


うるさいスライムとふたりに背を向け、ヘンテコな部屋をあとにした。


外に出て、気づいたのが、あのヘンテコな部屋は、ナイトパレードのギルドだった…………。









『ブンッ! ブンッ!』


河川敷の橋の下。


ひとり黙々と剣の素振りを繰り返す。


…………悔しい。


剣も負けて、リーダーの座も奪われて、どこか慢心があったのかもしれない。


誰にも負けない、強さが欲しい。


「フンッ! フンッ!」


鋭くはやく。敵が目の前にいるとシュミレーションしながら素振りをしていく。


すると、遠くの方で、親子が騒ぎ出した。


「ママーッ! 見て見てー、あのお姉ちゃんダンスしてるよー!」


「マーくん、見ちゃいけません!」


…………足早に去っていく親子。


なによ、失礼な親子ね。


ひとりで剣の練習したって、別にいいじゃない!


ていうか、ダンスじゃないし!


「ムカつく! ムカつく! ムカつく!」


『ブン! ブン! ブン!』


「ストップ!」


「ッ!」


突然、背後から命令される。


ビックリして、言われるがままに止まってしまう。が、この私に命令するなんてどこのどいつだ!?


イライラしながら振り返る――


「すまない、いきなり声をかけて。それ以上進んだら花を踏みそうだったから」


金髪の青年が素敵にハニカム。


高身長。黒いタキシード。


整った顔立ち。


"金持ち""イケメン""チョー優しい"


『ドキンッ!』


心臓のあたりに強烈な刺激。


…………なぜか、顔が熱い。


も、もしかして、これが恋。


「あ、す、す、す、すいません! すぐのきますからあははははッ」


『グシャ! グシャ! グシャ!』


「ストップ! ストップ! ストップ!」


「あ! ちが、わざとじゃないんです!」


イケメンが膝をついて、潰れた花に謝罪した。


「…………すまない」


イケメンのその姿に、私は慌てて土下座した。


「踏んでしまってすいません!」


「ストップ!」


「あ!」


気づけば、また花を踏んでいた。


自分の情けなさと、恥ずかしさで、頭を下げ、


「こ、ここで剣の練習しません! だから許して!」


逃げるようにイケメンに背を向けた。


「待って!」


「え!」


まさか、引き止められるなんて、夢にも思ってなかった。


驚きと、僅かな期待を抱いて振り返る。


「上を向いて、花を踏まずに歩いてごらん」


「は?」


掛けられた言葉は、期待していたものとは、大きく違うものだった。


私は首を傾げながら、尋ねた。


「…………それは、その、剣を使わずに練習しろってこと?」


すると、イケメンはニッコリと笑って、


「剣術とは、知ることと見つけたり」


訳のわからない言葉を残して、私の元から離れていった。


「…………はあ。カッコいいけど、性格は合わない気がする」


『ブンッ! ブンッ! ブンッ!』


私は、深いため息とともに、ふたたび素振りを始めた。


もちろん、今度は花を踏まないように、手だけで素振り。

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