第28話(最終話) 俺とヒーローがどうなったか

「ゆうみ、わり! せっかく俺をナンバーワンでいさせてくれたのに、俺、やっぱりゆうみが好きだ。他の生徒と平等なんて無理だし、仮の彼女なんて作れるわけがない」


 ステージから向かって左側の列に並んでいたゆうみは、ポカンと口を開けている。

 他の生徒たちも時が止まったように動かず、もちろん声を上げる者もいない。教師陣もあまりにも大胆かつ唐突すぎる俺の告白に固まった。


 全員、思考停止。

 からの、昨日の記憶がよみがえった者から「昨日の今日でナンバーワン辞めんのかい!!!!!!!」と心の中で思い始めたに違いない。


 そしてそれらはようやく声となり、


「「「えーーーーーーーーーー!!!!!!!?」」」


 十分に沈黙したあと、全生徒が足並み揃えて絶叫した。そりゃもう、世界が誇るロックバンドのオーディエンス並みの反応だった。

 なんだこれ、最高かよ。

 今度生まれ変わったらロックバンドのボーカルになりたいと本気で思う。


「んだよそれ、昨日の感動を返せっ」

「愛を貫くなんてやっぱりステキ」

「自分勝手すぎ」

「今泉くんが幸せならそれでいい!」


 賛否両論、さまざまな声が飛び交っている。

 否定的な意見についてはごもっとも。俺は、全生徒を裏切ったことになる。それでも、地位も名誉もどうでもよくなるくらい、ゆうみが好きだ。


 -ねえ、今泉くん知ってます? 恋愛に溺れた神様はだいたいが堕落するんですよ


 相原が言っていたことを思い出し、俺は思わず口元に笑みを浮かべた。


 確かにそうかもしれない。恋愛は人生を簡単に歪めてしまう。

 それが面倒で恋愛から距離を置く若者も増えているらしい。


 それに有名人の恋愛事情はもっと複雑だ。情報社会でこっそりと恋愛ができなくなった今では、身を滅ぼしかねない。少しの気の緩みが原因で、週刊誌やSNSで拡散され、明日には知名度が地の底に落ちているかもしれない世界。


 でも、そんな世界なら、俺はいらん。


 ズボンのポケットに手を突っ込み、退学届を取り出そうとする。

 ああ、この制服を着るのも今日で終わりか。短かったなあ……


「ちょっと待った!!!!!」


 ……え? デジャブ?

 自分がつい数分前に言い放ったセリフとまったく同じテンションで声が響く。ズボンのポケットから取り出しかけていた退学届を思わず引っ込めた。


「今泉くんを退学にするんじゃなくて、恋愛禁止の項目の削除を求めます!!」


 俺のまさかの告白に目を丸くしていたゆうみが、まためちゃくちゃなことを言い出した。


 全員、思考停止(二度目)。


「「「えーーーーーーーーーー!!!!!!!?」」」


 十分に沈黙したあと、全生徒が足並み揃えて絶叫した(これも二度目)。


「わたしは誹謗中傷に負けてしまった人のニュースを見るたび思うんです。簡単に言うなって言われるかもしれないけど、あの人のそばにわたしがいてあげられたら、絶対支えてあげたのにって。だから、ナンバーワンにも、支えてくれる恋人の1人や2人、必要なら3人くらいいても、いいと思います!!」


 自信満々に言ったあと、「あ」と何かを言い忘れていたように小さく声を漏らすと。


「もちろん、今泉くんは誰にも渡しません!」


 こうしてここに、1組のお騒がせな幼馴染カップルが誕生した。


 *


 清宮高校特有の新入生人気ナンバーワン制度はあれから見直された。

 ゆうみはいつかの宣言通り、理不尽なルールから俺を自由にしてくれたのだ。


 晴れて恋愛できるようになった俺は今、ナンバーワンとして学校の平和を守りながら、毎日ゆうみと手を繋いで通っている。


 街中の大型ビジョンにて。難関校として名高いあの清宮高校の歴史を変えた日として、ゆうみの演説(?)は今でも度々放映されている。


「あの今泉って誰?」


 たまたま立ち止まったサラリーマンが同僚に問う。


「あ、それ、俺です」


 たまたま、その会話を耳にした俺は答える。


「この今泉くんが俺です」




(完)




 **********

 あとがき


 まずは、ここまでお付き合い下さりありがとうございました。

 更新の度に必ず読んで下さる方、応援や星を付けて下さる方、フォロワーの方……

 本当に感謝です!(語彙力が乏しくなるくらい感謝しております)


 もう本当、勢いだけで書き始めた作品でして。

 構成も何もあったものでなく、書き出しの設定から途中に出てくるエピソードを結びつけるのにひいひい言いながら書いておりました。

 純文学系の作品を書いてきたので、ラブコメを意識した作品は初……!


 伏線回収にもやや不満が残るところですが(結局、ゆうみの隣にいた爽やかイケメンの先輩は元ナンバーワンだった人で、それを支える側としてのアドバイスをもらっていた……という風な設定で登場させました)、この話で完結となります。


 1ヶ月間ほどの短い期間ではありましたが、読んでいただける皆様と出会えて幸せでした!(誤字脱字などもあるなか、寛容なお気持ちでお付き合いいただき感謝です)


 次回のラブコメはもっと作り込んだものにできるといいなあ……


 ありがとうございました☺︎


 五味零

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今泉くんは誰にも渡さない!←この今泉くんが俺です。 五味零 @tokyo_pvc

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