第19話 父 その後
「あの後、母から電話があった」
いつもの町中華で、わたしはアヤコと飲んでいる。
父は、わたしが男を作ったと思いこんでいたという。
どうも組の若い衆が、わたしが「男を連れて食事に行っている」場面を見たらしい。
それで父は、いてもたってもいられなくなった。わざわざ学校まで乗り込んだのである。
『ああいうところは、相変わらずなんだよね』
母の言葉に、わたしも「だよねえ」と答えるしかなかった。
今は、急におとなしくなったとか。
きっと、魔女の毒にあてられていたのだろう。
「それにしても、どうして不可侵のはずのバトル領域に、母は入ってこられたんだ?」
「親だからよ」
父が入り込んだのだ。母も領域へ入れたのだろう。
「もっとも、おばさんの記憶だと、あんたのおじさんが暴れだしたのをなだめたくらいの記憶しかないわ。魔法領域での出来事は、夢の中で起きたと思っているから」
母も、同じことを言っていた。えらく長い夢を見たと。
「どのタイミングで、魔女が取り憑いたんだろうな?」
ビールを煽りながら、アヤコに聞いてみる。
「そりゃあ、移動中よ」
地元からこちらまでリムジンで来たと言うから、その間に取り憑かれたのか。
「こちらの身内まで、狙うなんて」
「でも実際、リクは狙われているわ。いつキテラに完全侵食されても、おかしくないわ」
だとしたら、早く手を打たないと。
電話がなった。父からだ。また何かいいたいのだろうか?
「どうしたの?」
『いや。授業参観のことだが』
父の声が、やけに弱々しい。風邪をひいても、真冬で乾布摩擦するくらいなのに。
『すまんかった』
「もう過ぎたことだろ。気にすんな」
『いや。お前に男ができたと本気で思っていてな。夢の中で、誰かにささやかれたのだ。娘を連れ戻せと』
きっとキテラだろう。
「そんな声に耳を貸すとは。オヤジらしくないね」
『もっともだ。いつもなら気にせんのだが、精神が思いの外、不安定だったのだろう。お前は昔から男っ気なんてなかったから』
「あのね。別に男っ気なんこれっぽっちもないから」
『その割にはあの青年教師、お前に入れあげていたではないか』
わたしは、沈黙してしまう。
『余裕が出てきたら、紹介なさい』
「違うっての」
『それと、教師の道は、あきらめるな』
「え」
あれだけ反対していたのに、父が応援してくれた。
『日陰者が教師など、とワシも思っていた。しかし、お前はちゃんと、人を導けていたのだな』
「ど、どうだろうね」
『謙遜無用。しっかりやれ。では』
父が通話を切る。
「よかったわね、認めてもらえて」
「うん」
だが、この後リクくんに最大のピンチが来るとは……。
第四章 完!
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