最終章 三十路魔法少女教師の希望

第20話 デートの約束

「ミサキ、デートしなさい」


 いつもの戦闘後の町中華で、わたしはアヤコから妙な提案を受ける。


「え?」


 あまりに唐突な話に、わたしはラーメンをすする手を止めた。


「だから、その苺谷いちごだにくん? ってのが気になるんでしょ? だから、デートなさい」


「なんで、そうなるんだよ?」


「見てりゃわかるわよ! ずっとボケーっとして! 気になるんでしょ? そのカレのこと」


 なるほど、そう思われているのか。


 どうも苺谷くんは、戦闘の日に限って現れる。


 くれたプレゼントも、どういうわけか戦闘時に役にたった。


「でも、口実は?」


 わたしは、アヤコのグラスに瓶ビールを注ぐ。


「そんなの、プレゼントのお礼でいいじゃないの」


 餃子を口に入れてから、アヤコはビールを煽った。


「相手が乗ってくれるかどうか」


「あのねえ!」


 アヤコが、グラスをドン! とテーブルに置く。


「バイクで追いかけてきてプレゼント渡すなんて、よっぽどなんだから! 好意があると考えて全然いいわよ! むしろどうして誘ってくれないんだーって、向こうは思ってるわよ」


 どうだろうか。


「たしかに、ちょっと気になってて。恋愛がらみではないんだけど……」


「どういうことよ?」


 ひとまず、わたしはあかやし仮面と苺谷くんの話をする。


「ほお。その苺谷氏が、あやかし仮面かもってこと? ありがちなパターンね。でも敵か味方かわからない」


「うんうん」


 どうやら、わかってもらえたようだ。


「だったらなおさらデートしなさいよ」


 全然、理解してくれていなかった。


「なんで、そういう理屈になるんだよ」


「いいじゃないの。もし敵だとしても、あんたの魅力で味方に引き込んじゃいなさい」


「ねえよ。あたしに魅力なんて」


「アンタ、わかってないわね」


 今度はアヤコが、わたしのグラスにビールを注ぐ。


「隠れファン、めっちゃ多かったんだから。男子はみんなアンタを怖がって、手を出してこなかったけど」


 当時、生徒からビビられていたのは、わたしのバックについている暴力団だけだったらしい。


「面倒見がよかったじゃないの。困っている生徒がいたら、男女問わず手を貸してあげてたでしょ?」


「そうかなぁ」


「もともと、性格が教師向きなのよ。アンタは」


 わたし自身については、人気があったという。


「迷惑じゃないかな?」


「連絡先も交換してるんでしょ? 今から誘っても嫌がられないわ」


 それでもわたしは渋る。


 勝手に、アヤコがわたしのバッグからスマホをひったくる。


「ほら」


 メッセアプリを起動して、苺谷くんに無料通話のアクセスをした。


『ミサキ先輩ですか?』


「あばば、あの」


 うまく言語化できない。


 相手は、根気よく黙ってくれている。


 こうなったら、やぶれかぶれだ。


「明日、デートしましょう」


『え、ボクと、ミサキ先輩が?』


「プレゼントのお礼も兼ねて」


『ありがとうございます』


 集合時間を決めて、通話を切った。


「明日のお昼に、ピクニックデートに行くことが決定しました」


「お見事ね」


 アヤコが手をたたく。


「なんでピクニックに? 普通、お食事とか映画とかじゃないの?」


「おしゃれ着がないんだよ。ピクニックなら、装備品に困らない。最悪、TシャツGパンでOK」


「アンタ、そういうところでは、めちゃ頭が回るわよねえ。こざかしいというか」


 賢しいとは何だ?


「コースは?」


「学校の近くに、標高が低い山があるんだ」


 適当に登りつつ、山頂で弁当を広げるプランにした。


「いいわね。うちのリクも連れて行くわ。あの子、あまり外に出たがらないから。もちろん、たんたちとは別行動にするから」


 それはいい。気分転換できるだろう。


「はあ、緊張がほぐれたら、おなかすいた」


 わたしは、餃子に箸を伸ばす。


 だが、アヤコが皿ごと自分の方へ引き寄せた。


「にんにくは、やめたほうがいいわね」


「あーそうかー」


 一口も食べていないのに。


「でもアンタ、お弁当どうするの? まさか、コンビニで買ってきたりなんてしないわよね?」


「……スゥー」


 そこは計算外だった。


「まったく。肝心なところで抜けてるのよね、アンタって。朝早く、あたしのおうちに来なさい」


 アヤコとの約束直後、メッセで「お弁当は作ってきます」と知らせておく。


 うっきうきのスタンプが帰ってきやがったー。

 期待されてるー。

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