第18話 心を弄ぶモンスターに鉄槌を

 母は父の髪を掴み、ビンタをする。


「まったく! 往来で娘を困らせて、人として恥ずかしくないのかい? しかもこんな格好で暴れて!」


「ワシは極道としてメンツをぶはあ!?」


 また、ビンタが飛んだ。


「ヤクザがこんなことくらいで、メソメソしてんじゃねえ! 極道なら、もっと堂々としろってんだ!」


「ひい! ごめんなさいい!」


「わたしじゃなくて、まわりに謝るんだよ!」


 今度は、グーパンチが飛んできた。


「ぐへええ!」


 父が顔面に、容赦ないパンチを受ける。


 歌舞伎のカツラが脱げて、父が吹っ飛んでいった。


「ああ? なんだこれは?」


 母が、持ち上げようとする。


 カツラが、今度は母に巻き付こうとした。


「うわ、なにコイツ!」


 だが、父より腕力の高い母は、襲ってくるカツラをキャッチする。


 母を乗っ取ろうとしているが、カツラは母の筋力に敵わない。


「テメエ!」


 わたしは、ヨーヨーを投げてカツラに当てる。


 ヨーヨーを食らったカツラが、母の手から離れていった。


 ジャストタイミングで、母がカツラを手放す。


「母さん、父さんをお願い!」


「OK」と、母が父の足首をつかんだ。引きずっていき、わたしたちと距離を取る。


 吹っ飛んだカツラが、ひとりでに立ち上がった。あれで、生きているのか。


「ミサキ、それよ! おじさんを操っていたのは、そのカツラだわ!」


「わかった!」


 まだ獲物を狙って、うごめいている。


「あのまま外に出て、他の保護者に取り憑くつもりか! ゆ る さ ん」


 ヨーヨーを、カツラ型の魔物に叩き込む。


 カツラも、ただではやられない。ナギナタで打ち返してきた。本体だけあって、父を取り込んでいたときより動きがいい。


 戦ってみて、わかった。コイツにとって、宿主はただの盾だ。単に、相手を苦しめたいだけ。


 こういったモンスターが相手に取り憑いて、これまでも人々が苦しんでいたのか。


「人の心を弄ぶのが、どういうことか。思い知れ!」


 ヨーヨーに魔力を込めて、再度投げつける。


 再度カツラが、ナギナタで打ち返してきた。


「二度も同じ手を食うかってんだ!」


 戻ってきたヨーヨーを、わたしはジャンプからのキックで蹴り返す。足からさらに、魔力を流し込んで。


 ナギナタで応戦しようとしたが、武器はあっけなくへし折れた。


 カツラに、ヨーヨーがめり込む。ボンッと激しい爆発音がして、魔物は倒された。


 不利になった魔女キテラが、撤退していく。




 気がつくと、教室に戻っていた。 


 

「お騒がせしました。では、失礼いたします」

 

 母は父の足首を持ったまま、廊下に引きずって歩く。


 あまりの光景に、保護者たちも唖然としている。

「ミサキ」


「はい?」


「しっかりね」


「……はい!」


 わたしは身を正して、授業を再開した。

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