第12話 謎の仮面戦士

 戦闘フィールドは、社交界のダンスホールみたいな場所だ。


「あんた、大丈夫?」


 どうやら、アヤコが近くにいたみたいである。


「アヤコ! どうしてここに?」


「リクを送ってあげたのよ。あたしは今、近くのカフェでのんびりしていたところよ」


 自分は誕生会にまでは呼ばれていないので、純喫茶でお茶をしているという。


「ていうか、嫌な予感がしたのよ。あんたは見ていられないのよね。ただでさえ、|不運(ハードラック)と|踊(ダンス)ってるような女だから」


 違いない。


 何の因果か、三十路ながら魔法少女なんてやっているし。


「それより、あの毒りんごババアをどうにかしないと」


 サユさんのメイドは、毒リンゴの被り物をした魔法使いのババアになっていた。ハロウィンはまださきである。


「ああ、ハルキくん!?」


 わたしと同じように空間の中に閉じ込められたサユさんが、婚約者の元へ。


 たしか、ハルキくんだったか。サユさんの婚約者は、ガラスでできた棺桶で眠っている。


「乙女のキッスで、この子は目覚めるのさ。さてさて、あたしがこの子の唇を奪ってしんぜよう」


「ダメ!」


「動くな! 動けば、この子のノドにこいつがグサッといくよ」


 ハルキくんのノドに、魔女がナイフを突きつける。


 シンプルに、ピンチではないか。


 こればかりは、わたしも絶体絶命である。


「その子を殺したら、あんたも自分の夢を叶えられないじゃないではありませんの」


 サユさんが、説得を試みる。


 たしかこのメイドは、ハルキくんと添い遂げたいと言っていた。殺してしまったら。


「いいのさ。結ばれることが許されないなら、この子を殺してあたしも死ぬのさ!」


 魔女は二本目のナイフを、自分のノドへ近づける。


 典型的なメンヘラか。周りが見えていない。


 どうしろというのだ?


「やめな。ヘタに説得して、このヤンデレが落ち着くとは思えない」


 第一この女は、すでに自己完結している。人の話なんて、聞かないだろう。特に恋敵の言葉など、彼女にとっては傷にしかならない。神経を逆なでするだけだ。


「ああ。愛しのハルキくん。あたしはハルキくんのお嫁さんになりたくて、ハルキくんのメイドになったのに、奥様から追い出されてしまった。それで、婚約者であるサユ様のメイドにさせられた! あてつけのように! いえ、これは当てつけだよぉ! 奥様はあたしに、幸せになっていくハルキくんを見せつけることで、あきらめさせようとしているだ! そうはいかないよ! いつまでも、いつまでもハルキくんのそばにいさせてもらうんだからね! これからもずっと!」


 長ゼリフは、まだ続いている。

 しかし、もう耳が聞き取りたくないと拒絶を始めた。


「一緒に地獄へ行くよ、ハルキくん!」




「地獄へは一人で行きたまえ」




 魔女が振りかぶったナイフを、何かが弾き飛ばす。


 地面に突き刺さったのは、カンザシだ。


「あやかし仮面、見参」


 狐のお面を付けた着物姿の男性が、ダンスホールの手すりに立っていた。


「……あやかし?」


 もはや、なんでもアリになってきたな。

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