【第一部】第四十章 説明と偽名と
――職員室外にて――
「ねぇ……今、教官の様子、変じゃなかった?」
「そうだな。アレン……お前、また……」
「ち、違う! 俺は何もしてない!」
職員室から出てくる際、アレンは女性教官――ナタリアに送り出されたが、ナタリアの顔が真っ赤だったのをエリスとカールに怪しまれる。――どこか、稲姫と琥珀からも非難めいた視線を感じる。
「ふ~ん……まぁ、いいわ。で、何の話だったの?」
これっぽっちも信じていなさそうな態度でエリスが聞いてくる。
「ここではちょっと……この後、俺の部屋に来れるか?」
カールとエリスがうなずいたので、アレンは皆を引き連れて寮に向かった。
◆
――アレンの部屋にて――
「――実は、理事長から卒業試験を受けるよう言われてな」
「ちょっと職員室に行ってくるわ」
「ちょ! 待てエリス! 最後までアレンの話を聞こうぜ!」
寮に着くとエリスとカールは一度自分の部屋に戻り、普段着になってからアレンの部屋に集まった。稲姫と琥珀も人化し、茶と茶請けを用意してアレンが話し出した直後のことだった。
「何よカール。あんたはアレンがいなくなってもいいの?」
「い、いいわけねぇだろ! でもまずは、理由とか色々聞こうぜ」
さすがはカール、冷静だ。――それに、エリスは俺の代わりに怒ってくれてるんだよな。友人たちの反応にどこか嬉しくなる。
「そうだな。まずは話を聞いてくれ」
エリスとカールがうなずき、アレンが話を再開する。
「稲姫をさらいに来た仮面の奴ら――俺達が拘束して自警団に引き渡した奴らだが、収容施設で全員死んだらしいんだ」
エリスとカールが息をのむ。
「原因や手段はわかってないらしい。自殺か他殺かも。――だが、これを重く見た学校側は、このまま俺を学校に置いておけなくなったんだ」
そう言い終え、アレンは一息つくが――
「何よそれ……アレンは何も悪くないじゃない!」
「危ないから放り出すってか……? それでも教育者かよ」
「主様……ごめんなさい。わっちのせいで」
「退学じゃなく卒業なんだ。――明日の卒業試験に受かればだけどな。そんなに悪い話でもないさ」
稲姫の頭をなでつつ、エリスとカールをなだめようとするが――
「アレンは! ……いいの? ――と、離れ離れになっても」
「ん? すまん、よく聞こえなかった」
アレンが聞き返すと、エリスは真っ赤な顔で「う~っ」とうなり――
「アレンは私と離れても平気なのかって聞いたのよ!」
ストレートだった。カールも驚いている。……エリスのこういうところは、純粋に好ましいな。
「もちろん、離れたくなんてないけどな。――でも、俺のせいでエリスが傷つくのはもっと嫌だ」
アレンもエリスに本音で返す。
「相手がヤバすぎるんだ。――平気で仲間を殺す程な」
「他殺を疑ってるのか?」
カールの問いかけに無言でうなずく。
「もちろん自殺の線もあるけどな。でも、皆が一様に同じ死に方をするなんて、事前に仕込まれてたか、そういう能力を持った者による犯行という線が濃厚だろう」
「まぁ、そうだな……」
カールもうなずく。
「危険なら、アレンだってそうじゃない! それに、一人になるんだし……」
エリスが心配そうに言う。
「そうだな。こればっかりは仕方無い。もっと力をつけるまで、また襲われないことを祈るしかないな」
アレンは少し弱音を吐くが――
「うちもいるし! ご主人もうちの力をまた使えるようになったし、頑張るにゃ!」
「わっちも、もっと強くなるでありんす!」
琥珀と稲姫が喝を入れてくれた。――これは、みっともないところは見せられないな。
「ああ。二人を守れるくらい強くなってみせるよ」
アレンも不敵に笑う。
「わかったわ。――納得はしてないけど、考え直さないみたいだし。でも――」
エリスが顔を引き締め、アレンを指差して言う。
「手紙を定期的に送ってよね! それくらいならいいでしょ!」
「俺は珍しそうなお土産がいいな」
エリスが手紙を要求し、ちゃっかりカールも便乗してきた。全く、抜け目のない……手紙とお土産くらいなら大丈夫かな。
「ああ。それくらいなら問題ない。……でも、そうだな。万が一を考えて、偽名を使うことにするよ」
「用心深いな。でも、それくらいがいいのかもな」
「それでいいわ。で、なんて名前にするの?」
その問いに俺は――
「カレラ」
思いついた名を口にする。
「俺の旧名
たった今思いついた名を皆に告げるが――
「あんたのことを知ってる連中ならすぐわかりそうだけど……」
「確かに」
不評だった。くっ……!
「じゃあ、わっちがつけてあげるでありんす!」
「ずるい! うちも!」
「じゃ、じゃあ私も!」
「なら俺も!」
全員が名付けを申し出てきた。――ペットになった気分だ。でもここは任せてみようか……どうせ偽名だし。
「カムイ」
「アサヒ」
「ルーク」
「フレディ」
皆が順々に名を告げる。えっと……
「見事にみんなバラバラだな……」
どうするか。
「好きなのでいいわよ?」
では、エリスのお言葉に甘えて――
「じゃあ、ルークにしておくか。この辺にもいそうな名前だし、手紙を送るのはエリスにだから、思い出しやすいだろ」
「じゃあ決まりね♪」
他の皆は少し不満そうだが、なだめて納得してもらう。
「でもまずは、明日の卒業試験に受からないとな……」
落ちたらただの退学だろうからな。せっかく通ってたんだし、卒業はしたい。
――その日はお開きとなり、俺は明日の卒業試験に備え、英気を養うのだった。
神の盟友 黄昏のy @tasogarenoy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。神の盟友の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます