第三話
それからの労働環境は酷いものだった。
長時間労働は当たり前。年中無休で働かされるし、モンスターと戦って怪我をしても労災は下りない。全て自己責任だ。
何度も逃げようとしたが、契約のせいで勇者から離れることができない。そのうえ、命令には絶対服従である。
まさに地獄の日々だった。
それでもいつか自由になれる日を夢見てぼくは空手チョップでモンスターを斬って斬って斬りまくった。
長い戦いの末、ぼくたちは最終決戦の地である魔王城に足を踏み入れた。
だがしかし、魔王の力はぼくたちの想像を遥かに超えていた。
闇魔法による全体攻撃をまともに食らい、このままだと全滅するのは火を見るより明らかだった。
「エクスカリバー、最後の命令だ。時間を稼いでくれ」
「は……?」
何を言っているのか、理解できなかった。
「勇者である私が倒れるわけにはいかないんだ。どうかわかってほしい」
そう言って、勇者は魔法使いと戦士を連れて逃げ出していく。
「待って!」
ぼくも逃げようとしたが足が動かない。持ち主の命令は絶対なのだ。
ゆっくりと魔王がこちらに向かってくる。ぼくの息の根を止めるつもりだろう。
それでもいいかなと思った。
なんだかとても疲れてしまったのだ。
「もう、好きにしてくれ」
そう吐き捨てたぼくに、魔王は小さな紙きれを差し出した。
「わたくし、魔王軍最高指導者を務めております。魔王です。こちらお名刺です」
「あっ、どうも」
恭しく名刺を差し出されたので、つい受け取ってしまった。
「山本エクスカリバーさんですね」
「そうですけど……」
「かねてより山本さんの働きぶりを高く評価しておりまして」
「ええと、何が言いたいんですか」
「ヘッドハンティングですよ」
魔王は慇懃な態度を崩して、パチっとウィンクをした。
突拍子もない展開に頭がついていかない。
ヘッドハンティングだって?
勇者を裏切り、魔王の手先になれとでも言うのだろうか。
いくら労働環境に不満があるからといって、そんなこと許されるはずがない。
許されるはずないのだが、これだけは聞いておかないと死んでも死にきれない。
「あの、休日ってどうなってますか」
「魔王軍は完全週休二日制です」
ぼくはエクスカリバー。
引き抜かれるのは運命だと思う。
(了)
【ショートショート】ぼくはエクスカリバー ウドンタ @udont0301
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【ショートショート】ぼくはエクスカリバーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます