第38話 廻旋の楽園

気が付くと俺は草原の真ん中で寝ていた。

上半身を起こし周りを見てみると、見渡す限り、青空と草原しかなかった。


「お!気が付いたか」


横から声が聞こえた。

それは急だった。

俺は思わず声がした方を向くと、そこには俺が同じように座っていた。


「なっ!」


これは夢か?

急に現れたし。


「びっくりするのもわかる。なんせさっきまで、俺とお前は戦ってたんだからな」


さっき、それを聞いて思い出す。


「お前、俺の影か?」


疑問形なのは、さっきとは打って変わって、闇をまとってなく、自分自身を鏡で映したかのような姿だからだ。


「まぁそうだな。厳密には違う。俺はお前だ。この世界で一時的に死んだ際に、バグが発生して魂が2つに分かれたんだ」


なるほど、魂が2つに分かれてたのか。


「えっ?でも影に見えたけど」


「あれは、半分になった魂を自分の闇で補っていたから、影に見えたんだろうな」


なるほど・・・。


「そしてお前も不安定だったが、向こうの世界で、立花のお前を思う心が魂を埋めたんだ」


「立花さんの!?」


「そうだ。だからお前を通して、霊界に干渉できた」


なるほど。

立花さんの気持ちが俺の欠けた魂をうめたのか。

悪くない。

そして俺はもう分かってしまった。


「闇が抜けた俺と、立花の気持ちが抜けた俺。1つに戻る時が来たようだ」


やっぱそうだよね。

元は1つだったわけだし。

それに・・・


「もう、現世に戻っても、今までみたいに霊界に干渉できなくなるだろう」


「そうだよな」


「しかし、魂が1つに戻っても少しの間だけまだ不安定だろう。みんなに別れを告げる時間ぐらいは残ってると思う」


「あぁ。それは助かる。急に挨拶もせずにバイバイは悲しいしね」


「さぁ、時間がない。そろそろ起きよう!」




**********************************************************

目が覚める。

俺は草原の真ん中で倒れていた。

だがさっきの夢とは違う光景が目の前にあった。

堀内と、立花さんが俺を心配そうにのぞき込んでいた。


「お!目が覚めたか!」


「ごめんね。立花君」


立花さんの顔はなぜか赤かった。

そういえば倒れる直前の記憶がない。

何か思い出さないといけないような気もするが今はそれどころじゃなかった。

体感で分かる。

思ってる以上に残された時間はないみたいだ。

俺は起き上がり、協力してくれたみんなの方を向き、頭を下げた。


「みんなありがとう!俺のためにわざわざ協力してくれて!」


皆が来てくれた時は本当にうれしかった。

今までずっと1人だったし、これから先もずっと1人で過ごして行くんだろうと思っていたからだ。

しかし、それは違うという事をみんなは教えてくれた。

これからの人生を、大幅に変えてくれたのだ。

感謝してもしきれない。


「いいってことよ、俺たち仲間だろ。協力して当然だぞ!」


それを合図に冒険者が皆俺の方にきて、頭をなでたり、肩を叩いたりして、頑張ったな!とか声をかけてくれた。

そして、俺は堀内の方を向いた。


「堀内、ありがとう。助かったよ」


「あぁ!」


「ここで出会えて本当によかった」


「あぁ」


堀内は下を向いている。


「遅くなったけどさ、俺たち友達にならないか?」


そう言い、俺は堀内の方へ手を差し出す。

すると


「何言ってやがる・・」


そして俺の手を、握手する感じで取る。


「俺たちもう友達だろ!!」


そのまま2人は抱き着き泣いた。


「2人とも・・・よかったね」


立花さんもその光景を見て泣いていた。

そして落ち着いた時に、みんなに伝える。


「どうやら俺もう現世に戻ったら今までみたいにこっちに来れないみたいなんだ!」


「そうだよな、今までここにいたのが不思議だったしな」


「みんなありがとう」


「またこっち来たときは、飲もうぜ!」


皆に別れを告げ、いよいよかというときに思い出す。


「あ!ゲンさん!!」


俺は大事な存在のゲンさんに挨拶していなかった。


「あぁ、ゲンさんなら家にいるんじゃないか?俺たちはもういい、行ってやりな」


「ゲンさん、お前が来てから明るくなったしな」


「ほら!時間ないんだろ。行ってきな!」


「ありがとう。それじゃあまた会おう!」


俺はもう一度頭を下げ、ゲンさんの家にダッシュで向かった。


「たくさんお友達ができてよかったね」


「そうだね。俺にまたこんな感情が芽生えるなんて思ってなかったよ」


ゲンさんの家が見えてきた。


「生きるのって。こんなに楽しかったんだなって!」


そして

ゲンさんの家に着いた、玄関を開けて中に入る。


「ゲンさん!」


呼びながら、家の中を探すがゲンさんの姿は見えない、いったいどこに。

探し回ってる時間はない、考えろ!

畑にもいなかった。

すると1ヵ所だけゲンさんが行きそうなところがあった。

いや、あそこしかない!

すぐにそこに向かった。

そして見つけた。

それは西側の森につながる橋だ。

ゲンさんに、壊れた橋を渡っていたら踏み外して川に落ちたことを伝えていた。

そして踏み外したところは、ゲンさんがタオルで補強していた。

タオルじゃだめだと本格的に直しに来たのだろう。

ゲンさんはやっぱり優しい。


「ゲンさん!!」


俺は走りながら叫んだ。

するとゲンさんは作業を止め、振り返った。


「おぉ、明か!もうちょっと待っとれ、お前の言ってた橋を直しているところじゃ」


俺は、ゲンさんのそばまで来た。

そして・・・。


「ありがとうゲンさん。いや!おじいちゃん!!」


ゲンさんは目を丸くした。


「何を言っておる?」


「俺は子供の時おじいちゃん子だった。俺は電車が好きで、いつもおじいちゃんに電車を見に連れて行ってくれていた」


ゲンさんは黙って聞いてる。


「そんなある日、いつも通り電車を見に連れて行ってくれていた日、俺とおじいちゃんは、信号無視で突っ込んできた車に轢かれた」


「そんな・・・まさか」


「そして、意識が途絶える前おじいちゃんは、ごめん、儂が連れだしたばっかりに大事な孫がって、ずっとつぶやいていたんだよ!」


「ああああ・あああ」


ゲンさんは、頭を抱える。

そして、


「許しを乞うても、許してくれるわけがない。明を連れだしたばっかりに、事故に巻き込んでしまったのじゃからな」


おじいちゃんは記憶を取り戻したらしい。


「おじいちゃんは悪くない!家族の誰もそう思ってないよ!」


そしておじいちゃんに抱き着く。


「おじいちゃん。俺を事故から守ってくれてありがとう。今も大好きだよ!」


おじいちゃんは泣き崩れた。

そしてしばらくしたら落ち着いた。


「明。怖い思いをさせてすまなかった。大きくなったのぉ~」


「うん、もう高校生だしね」


そんなたわいのない会話をしていると、体が透けていることに気付く。

時間切れか。


「おじいちゃん。時間みたい」


「あぁ、わかっておるよ。明はまだ生きておるしずっとここにはおられまい」


「会えてよかった。おじいちゃん」


「死んだ儂に会いにくれてありがとうの」


おじいちゃんは満面の笑みを作って、手を振ってくれた。

お互い目から涙がこぼれる。


「おじいちゃん。俺を育ててくれてありがとう!」


俺も手を振る。

そして意識が途絶える。




****************************************

そして目覚めた俺は、立花さんと付き合い始め、結婚し、子供にも恵まれた。

両親には最高な親孝行ができた。

こんな俺でも、人生を謳歌することができた。

そんな人生を俺は終えた。




****************************************

そして、ついに目が覚める。

なんか長い夢を見ていた気分だ。

しかし実際は、長いどころではない。

人生1回分過ごしたのだから。

起きたと同時に、体の拘束具が外れた。

そして、元の記憶と、夢の記憶が混じりあう。

あぁ、俺は、刑期を終えたんだ。

この世界では、1度の睡眠で、どんな罰則も受けさせることができる。

またこの技術は、医療やほかの分野にも応用されている。

他人に少しの危害を加えた人から、殺人を犯した人まで、この施設に入れられ更正させられる。

この世界には死刑はない。

なんせ、この施設ではそれ以上の苦しみを与え、殺すことなく罰せることができるからだ。


「○○○○×〇番、釈放!」


そうアナウンスが聞こえ、施錠されたドアが開閉する。

そして俺は、夢で出来た新たな絆に向かい一歩を踏み出す。


皆ならあの世界に名前を付けるなら何にする?

どんなに人生をあきらめても、その楽しさを何度でも教えてくれる。

まるで楽園のような世界だ。

俺はそうだな・・・廻旋の楽園としよう!

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廻旋の楽園 若坂 ケイスケ @espod

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