歌う人
映画で見る様な青い空はない。現実の空はただの曇天。じめついた空気、梅雨の張り付く熱。倒れた先の私にあったものは、この世の地獄を煮詰めた世界。今の私にあるのは痩せ細った体と、燃やすお金と自嘲する紙煙草。
さもしい人間だ。一人の時間を大切にするくせに、どうしようもなく温もりを求めてしまう。誰かを求めたのも、寂しいを唄うのも、全て温もりが欲しい私のエゴだ。
私は優しくなどない。ただ、自分のために言葉を紡ぐ。聖者ではないが、あなたにかける言葉にただの一つも嘘はないことだけは知ってほしい。そして、私のような人間にはならないで欲しい。私はあなたに地図を示す。歌と言うプレゼント。この言葉が正しくあなたに届くまで私は唄い、言葉を尽くす。あなたのアラスカまで、私の言葉が船に乗り届くことはないだろう。だが、道に迷うあなたの地図になれば良い。それが希望ではなく、ただのプレゼントになればいい。
肺を凍らす張り詰めた空気や、所在が曖昧になる生暖かな春の空気に息苦しさを感じたら、私の唄を聞いてみてほしい。そして其処にあなたの道標になるものがあったとするならば、それが私へのプレゼントだ。
どうやら、お喋りが苦手な私は文字になると随分と饒舌のようだ。偶には、こうして饒舌な私を見て欲しい。鼓膜だけでなく瞳でもあなたを魅了できるよう。
ショートショートまとめ 街角ニューカペナ @kakuyo_brown
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