紅い月の下で魔女と踊る～厨二少年の黙示録～

第１章 地獄への誘い

第4話 魔女対策課

　７月２０日蝉の声がする今日この頃、この国は夏を迎えていた。

「あち～」

　来叉はサテラに促され修道院の近くを散歩しているところだった。

（いくら俺が家にずっといるからってこんな暑い日に外に出なくてもいいだろ・・・）

　来叉は歩いていると一つの建物に視線を引き寄せられた。

「喫茶店か、まあ休むにはちょうどいいか」

　来叉はポケットをあさり始めた、するとあることに気づいた。

（オレ財布持ってねえじゃん、終わった）

　来叉が喫茶店に入るのを諦め、歩き出そうとすると後ろから足音が近づいてきた。

「君ちょっといいかな？」

「え？」

　来叉が振り返ると後ろには黒髪の男が立っていた。顔はまだ幼さが残っており大人には見えなかった。男の服装は黒いスーツに皮手袋をした明らかに一般人ではない服装をしていた。

「こういうものなんだけど」

　男は来叉の前に警察手帳のようなものを出してきたがエンブレムが警察のものではなかった。そしてそれにはこう書いてあった。

―――鍵峰（かぎみね）領（りょう）　魔女対策課

（面倒そうなのが来ちゃったな）

「君、青雲高校一年の黒神来叉くんでしょ」

「なるほど、事件のことですか」

「そうそう、少しお茶でもしながら少しお話いい？」

　領は喫茶店を指さしながら来叉に問いかけた。

（拒否しても面倒そうだしテキトーに話しとくか）

　二人はその後喫茶店に入ると窓際の席へと案内された。席に着くと領はすぐに来叉に話しかけてきた。

「すぐに話し出すのもなんだし、好きなもの頼んでいいよ」

「マジっすか！」

　来叉は領の言葉を聞くとすぐに前ニューを手に取った。

「えーっとそれじゃあクリームソーダとチョコパフェ、チーズケーキ、あと―――」

「待て待て待て、君は遠慮を知らないのか」

「だってなんでも頼んでいいって言うから、普段あんま高級なもん食えないので」

「はあ、まあいいけど。高級なものってただの喫茶店だよ」

「オレ、修道院に居候してるので外食とかしないんですよ」

「ムーンライト修道院だっけ？　ここから近かったよね」

「そんなことまで知ってるんですね」

「一応警察みたいなものだからね、事件にかかわった人の資料にはすべて目を通してるんだ」

「なるほど」

　二人は一旦会話を終えるとウェイターを呼び注文をした。注文を終えると本題である事件について話し始めた。

「あの質問いいですか」

「何？」

「事件の犯人、あれって誰なんですか全員変な仮面被ってましたけど」

「それを今調査しているところだよ、まだ何もわかっていないけど。もちろんわかり次第公表するつもりさ」

（嘘ついてんな）

　学校から脱出する際、来叉は犯人の一人を身動きが取れない状態にしていた。確実に一人は捕えているため”まだ何もわかっていない”ということはあり得ないはずだと考えていた。

「それともう一つ、魔女対策課って何ですか？」

「それを君が聞いてどうするの？」

　領は少し威圧するように言った・

「ああいや、言えないんならいいんですけど事件の内容に魔女が関わっているのか少し気になって」

「・・・・・」

　領を少しの間沈黙した。

「んー、難しいところをついてくるね」

（急に目つきが変わっな）

「そうだね、結論だけ言うと少しだけ魔女がかかわってる」

「なんでそれがわかるんですか？」

「それはさすがに言えないよ」

「だってさっき犯人について何もわかっていないって言ってたじゃないですか？」

「君はあまり知らない方がいいってことだよ」

（はあ、やっぱりこうなるか。テキトーに質問に答えときゃよかったのにオレの悪い癖だな、これでオレも晴れてブラックリストの仲間入りか）

「まあいいや、とりあえず僕が答えられるのはここまでだ。次は僕の質問に答えてもらうよ」

「うっす」

「さっき君、犯人は仮面をかぶっていたって言ってたけどその仮面に見覚えはある？」

「ないです」

「学校の女のことは交流はあった？」

（やっぱそうなるよな）

　来叉は少し考えた後、質問へと答えた。

「一応委員会で薔草玲奈ってやつとは知り合いですけど」

「ああ、君が助けた子か」

「助けたって程ではないですけど」

「仲はいいの？」

（さて、ここはどう答えるか。普通って言うのが無難だがこいつらの情報網のこと考えると怪しまれる可能性もあるが）

　月命（ムーンフェイト）には５kｍ以上契約した魔女から離れられない制約があるため玲奈は夏休み期間だけ修道院に泊まることになってる。もし領がこのことを知っていたら答え方を間違うと怪しまれる可能性があった。

「まあ、それなりには」

「そっか、じゃあ彼女のことを教えてもらえるかな」

「資料があるんじゃないんですか？」

「近しい人にしかわからないこともあるだろうし、人柄についてはかいてないから」

「そうですか。んー、端的に言うならただの真面目な優等生ですよ」

「なるほど、まあ確かに成績は良かったみたいだしね。ほかには何かある？」

「すみません、最近仲良くなったので詳しいことは」

「そっか、じゃあ今回のお話は終了かな」

「え、もうですか」

「ほかの子たちに聞いたら君が一番彼女と仲いいって言うから聞いてみたんだけど何も知らないなら仕方ないからね」

「はあ」

「あとは本人に聞いてみるよ。ちなみにだけど彼女が今どこにいるか君は知ってる？」

「！？」

　領は不敵な笑みを浮かべながら来叉へ問いかけた。

（やばい、今玲奈は修道院（オレんち）だ。それがばれるのもやばいが執拗に質問されすぎたらいつぼろが出るかわからん）

　来叉は脳をフル回転させて最適解を考えるがどのやり方にも問題があった。

（クソっ、こうなりゃやけくそだ！）

「それじゃあ、僕は帰―――」

「あの、玲奈なんですけど事件のことで今落ち込んでるので少しの間事件のことについて聞くのはやめてもらえませんか？」

　領は少し動きを止めた後すぐに答えた。

「確かにそれもそうだね」

（あれ上手くいった？）

「ああそうだ、これ食事代ここに置いとくからあとはごゆっくり」

「あ、ごちそうさまです」

　領はそのあとすぐに店を出て行った。

「こちらご注文の品になります」

「ああ、ありがとうございます」

　来叉もそのあと注文したものを食べ終えると喫茶店を後にした。

（にしても何だったんだあの人は、魔女対策課ってのも初めて聞いたし）

　来叉はさっきの会話を思い出しながらこれからのことについて考えていた。すると曲がり角を曲がったあたりで何か違和感を感じた。

（さっきから視線を感じるな、でも近くに人はいないし、まさか）

　ガンッ

　来叉は上からの気配を察知し、後ずさった。すると上から直立の刀が降ってきた。

「あれ、今の避けるんだ」

　その刀の持ち主は体勢を立て直すと来佐の方を向いた。そいつは狐の仮面、そして”黒いスーツに皮手袋”をしていた。

（こいつさっきの！）

「次は外さない」

　男は刀を構えると来叉へと鋭い斬撃を繰り出した。しかし来叉は体をかがませ間一髪で避ける。

「あぶな！？」

「今のも避けるんだ、君、反射神経いいね」

「そりゃどうも、てかあんた鍵峰さんだろ」

「さあ、誰のことかな」

「あくまで白を切るつもりですか」

「どうせ君はここで死ぬんだから僕がだれでもいいでしょ」

　そういうと男はまた刃を来佐へと向ける、それと同時に来叉は男とは逆の方へと走り出す。

「逃がさないよ」

　男は力強く大地を蹴り来叉の方へと突進し刀を突き出した。

「うおっ！」

　またも来叉はそれを間一髪で避ける。

「ちょこまかと動いて面倒くさいな・・・もういいや」

（何が来るんだ！？）

「炎雨（ボルカニックレイン）」

　男が手を天へと突き出し、呪文を唱えた。すると男の手からマグマが火山のように噴出した、そしてそのマグマが雨のように来叉を襲う。

（こいつ、月命（ムーンフェイト）かよ！）

　来叉はマグマの雨から逃げるがやがて来叉の上をマグマの雨が覆った。

（あ、終わった）

　マグマの雨は来叉に降り注ぐ。

「熱っ！・・・・・くない？」

「お仕事終了かな・・・・・？」

　来叉はマグマの雨を浴びながら立ち上がると自分の体に火傷をしていないか確認した。

「君・・・熱くないの？」

「なんとも・・・」

「魔法が効かない人なんて初めてだよ」

　すると男は魔法を止め、刀を構える。

（どうする、さっきみたいに逃げたところで追いつかれるのは目に見えてる、なら）

「死ぬ覚悟はできた？」

　来叉は深呼吸をすると足を踏ん張り歯を食いしばった。

―――戦（や）るしかないだろ。

　男は来叉へと走り出し鋭い斬撃を繰り出す。

（ここだ！）

　来叉は斬撃を避けると男の懐へと潜り込んだ。

「―――ボルトレインズ！」

「１？」

　次の瞬間、激しく轟く電撃が来叉の手を覆い、やがて男を襲った。

「くほっ・・・！？」

「一矢報いさせてもらうぜ」

　しばらくすると男は電撃に耐えられず刀を落とし前へ倒れこんだ。それをみると雷差は攻撃をやめ、男から少し距離をとった。

「それだけ電撃くらったらしばらく動けないでしょ」

「やっぱり君、月命だったか」

「それじゃ、オレはこの辺で」

　来叉は不案を抱えながら修道院へと向かった。

（何もねえといいけど・・・）