第23話 ギャル子ちゃんの説得

 テスト最終日のチャイムが鳴り、俺は思い切り伸びをした。


「んあぁ、やっと終わった……」


 何だかんだ、長いようであっという間だったな。

 今回のテストもそつなくこなすことが出来て、ひとまずは安心する。

 日頃の予習が効いたか。


 俺は勉強をする際、復習と言うものをあまりしない。

 その代わり予習を事前にするようにしている。

 そうすることで、普段の授業が復習に近いものになり、より問題点などを能率的に浮き出すことが出来るからだ。

 分からなければ授業終わりに質問も出来るので、疑問点をつぶしやすい。


 テスト終わりの緊張が解け、教室はいつもより賑やかだ。

 三年のテストは重要だから、みんな気負ってるものがあったのかもしれない。


「ハル、どうだった?」


 俺が席で脱力していると、小島が話しかけてくる。


「おお、結構出来たよ。ラストだけ分かんなかったけど」


「私も。あそこ難しいよね」


 適当にテストの話を交わす。

 小島は見た目こそギャルだが、かなり学力が高い。

 こういう真面目な勉強の話にも乗ってくれるから、ありがたい存在だ。


「でもよかった」


「何がだ?」


「ハル、この調子だと推薦狙えそうだね」


「まぁな。あとは第一志望行けるかどうかって感じだ」


 そこでふと思う。


「そう言えば小島って進学どうするんだっけか? 今まであんまり聞いたことなかったけど」


「うーん、私も進学かなぁ。でも内申点低そうだから、ダメだったらAO試験か、一般になると思う」


「どの学部行くとか決めてんのか?」


「んーん。私、ハルと違ってやりたいことないし。ぷらぷらって進学して、適当に就職するような感じかも」


「そっか」


 すると小島は少し考え込むように黙った。


「どうした?」


「夢があるっていいなぁって」


「別にそんな大したもんじゃねぇよ。好きなもんの延長だ。小島も服が好きなら、その方面で考えてみても良いんじゃねぇか。大学生って時間あるって言うしな」


「好きなものの延長かぁ……」


 彼女は俺の顔をじっと見る。

 何だ。


「ハルのお嫁さんかなぁ」


 ブッと、思わず噴き出した。


「……変なこと言うなよ」

「へへ、何か考えたらそんなのしか思い浮かばなかったや」


 少しイタズラっぽく笑うと、小島は窓の外を眺めた。


「でもまぁ、そうだよね。何かやりたいこと見つけるために大学行ってみるのも悪くなさそう」


「だろ?」


「ハルはさ、大学行っても私と会ってくれる?」


「当たり前だろ」


「やったね」


 こうして話していると、時々、本当に小島に告白されたのか分からなくなる。

 告白されてからも、こいつと俺の距離感は変わらないからだ。

 と言うよりも、好意を公言されたことで前より小島が引っ付いてくるようになり、距離が近くなった気がする。


 多分、もし俺が小島を選ばなかったとしても。

 この距離感は、変わらねぇんだろうな。

 そんな都合の良いことを考えてしまう自分がいる。


「ねぇ、今日って部活休みだよね?」


 不意に声を掛けられる。


「あぁ、今日はオフだな」


「じゃあさ、帰りどっか寄って食べていかない?」


「あぁ、良いな――」


 そこまで言いかけて言葉に詰まった。


「どしたの?」


 俺の様子を変に思ったのか、小島が首を傾げる。


「いや、以前、柚とお茶した時に散々拒否したからな。友達感覚でつい返事しちまったけど、今の状態で女子と二人でどっか行くのは柚にも悪いし、やめとくわ」


 すると小島は不服そうに唇を尖らせた。


「何でさ、別にいいじゃん。別にハルが誰と遊びに行こうが、ハルの勝手でしょ」


「筋は通しておきてぇ」


「ハルってでかい図体してる癖に、案外小心者と言うか、人目を気にするんだね」


「好きに言ってくれ」


「一応ウチら、付き合う付き合わない以前に、友達だと思ってたんだけど?」


「俺だって思ってるよ」


「後輩ちゃんは一方的にハルが好きで、水樹ちゃんはハルが好きかも分かんない状態なんでしょ? じゃあ別に誰に義理立てする必要もないじゃん。それとも、後輩ちゃんとはお茶して、水樹ちゃんとはデートするのに、私とはちょっとご飯食べるのも無理なんだ?」


「そういう訳じゃないけどよ……」


「ハルがもし私と後輩ちゃん、両方に筋を通したいなら、ちゃんと全員と遊んで、見比べても良いんじゃないの? 男なんだから真っ向から受けて立て!」


「うぅ……」


 小島の言葉は、何だか道理が通っているようにも聞こえた。

 水樹とデートして手まで繋いだ状況で、噂にまでなっている状況だ。

 これまで下手な行動はなるべくしないでおこうと思っていたのだが。

 その考えは間違いだったのだろうか。


 確かに、小島と学校帰りにどこか行くのは初めてじゃない。

 いつもの友達付き合いの延長ではあるし、それくらいなら良いんじゃないか……?

 我ながら、少し神経質になりすぎてたのかもしれないな。


「じゃあせっかくだし、どっか行くか」


「いやぁ、ハルがチョロくて助かるわぁ」


「あっ? 何て言った?」


「別にぃ?」


 前言撤回。

 もしかしたら俺は、ハメられたのかもしれない。


「まぁ、お前となら別にいいか」


「何が?」


「何でもねぇよ。行こうぜ」


 俺が鞄を持つと、小島は嬉しそうにはなをすすった。

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