第8話 ギャル子ちゃんの気持ち SIDE - A

 朝練が終わって、あまりの疲労に教室で眠る。

 俺が教室で机に突っ伏していると、不意に机をトントンとされた。


「誰だよ……」


 顔を上げると見覚えのある金髪ギャル。


「ずいぶん疲れてるじゃん、ハル」

「小島か……」


 同じクラスの小島 早苗。

 こいつとは一年からの仲だ。

 三年間同じクラスと言うこともありよく話す。

 聞き上手なのか、人の話を引き出すのが上手い奴だった。


「朝練疲れ? 珍しいね」

「いや、別件」


「ひょっとして、例の幼馴染みちゃん?」

「……さすが、鋭いな」


 椎名と知り合って数日。

 水樹の友達と言うことで、何かと接点が出来た。


 登下校、休日、部活から帰ってきたら水樹の家から出てきたこともある。


 決して絡む時間は長くない。

 が、そのわずかな時間で水樹と椎名、通常の二倍ダメージを受けるわけで。


 水樹一人でも手を焼いているのに。

 クソガキ二人の相手は、さすがに骨が折れる。

 俺のメンタルはボロボロにされていた。


「一日中人をロリコン呼ばわりしやがって。何の恨みがあるんだか……」

「ハルってロリコンなんだ?」

「んなわけねーだろ」


 俺が呟くと「ふぅん」と小島は頷いた。

 何となく、ここ最近の話をやんわりと伝える。


 椎名のこと。

 毎日のように水樹がおちょくってくること。


「休みの日も、平日も、毎日ハルに絡んでくるんだ?」

「家が近いのもあるけどな。妙にタイミングが重なるって言うか」


 すると小島は顎に手を当てて、しばし何か考えたあと口を開いた。


「その子、ハルのこと好きなんじゃない?」

「はぁ?」


 予期せぬ言葉に眉をひそめる。


「その子、たぶんハルのこと、男として好きだと思うよ」

「何言ってんだよ。そんなわけ――」


 思わず否定しようとするも、ここ最近のことが思い起こされて笑いが引っ込む。

 そんな俺を見て、小島は「ほら」と言った。


「普通その年頃の女の子は、好きでもない男に絡んだりしないよ」

「そうかな……」


「聞いてみたらいいじゃん。俺のこと好きなのって」

「聞けるかよ」


「ハルはさ、その子のことどう思ってんの?」

「どうって……まぁ、家族みたいなもんだしな。どうもねぇよ」


「本当に?」

「だって、中学二年だぜ? ないだろ、普通に考えて」


「でも大人になったら、四つ下なんて割と普通だよ」

「そりゃ大人の話だろ」


 すると小島は「はぁーっ」と呆れたようにため息をつく。


「ハルってそこらへん、絶望的なまでに鈍感だよね。今時、中二の女子だって普通に恋くらいするよ」

「そうなのか?」


 小島は頷く。


「ヤッたとか、年上と付き合ったとか、そういうのを一番気にする歳だよ」

「マジかよ……」


 でも、俺と水樹は幼馴染みだぞ?

 確かに昔は「お嫁さんになりたい」とか、そういう話も合ったけど。

 さすがに今は、子供の頃の話で収まってるんじゃないか。


 しかしそんな俺の考えを打ち砕くかのように、小島は「ハルって不器用だよね」と言った。


「知らず知らずのうちに人傷つけてそう」

「傷つける?」


「例えば好きな人にさ、『お前は興味ない。妹だから』とか言われたら傷つかない?」

「そりゃそうだけどよ……」


「妹だって思ってるのは、案外ハルだけなんじゃない?」

「そうなのかな……」


 俺が考えていると、不意に小島が何か呟く。

 よく聞こえずに顔を上げると「隙あり!」とわき腹を突かれた。

 思わず「ぐふっ」と声が出る。


「とにかくさ、もうちょっと幼馴染みちゃんとの付き合い方、考えてみたら? 案外、押してダメだから、もっと押そうとしすぎて過剰になってるのかもよ」


「そこは押してダメなら引いてみろじゃねぇのかよ」


「引くわけないじゃん。高三の男子が相手なんだよ? いつ彼女出来るか分かんないんだから、徹底して押すんだよ、そう言う時」


「そうなのか……」


 思わず感心してしまう。


「何ていうか、小島、お前やっぱ、いい奴だよな」

「惚れるなよ」

「バカ言え」


「何ていうかさ、私っていい女だから。人の恋路は邪魔したくないわけ。それがライバルでもね」


「ライバル?」


 意味が分からず首をかしげると、小島は「何でもない」とそっぽを向いた。


「っていうか、私も気持ちわからんでもないんだよね。長年の片思い? みたいな」

「へぇ、意外だな。あんまりそう言うの、考えないタイプかと思ってた」


「私、こう見えても意外と一途だよ?」

「へぇ」

「本当だよ……」


 小島の表情は何だか真剣だ。

 不思議に思っていると、不意にチャイムが鳴る。


「じゃ、私、席戻るから」

「ああ、ありがとな」

「別にいいよ。バーカ」


「なんだよ」

「別にぃ」


 小島はヒラヒラと手を振って俺の元を去っていく。

 何だ、あいつ。

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