幸せになりたいな

龍淳 燐

幸せになりたいな

 「どうしてだよ! なんでそんなやつと!」

 「涼君、ごめんね。 もう……」

 「涼兄ぃ……」

 「涼お兄ちゃん」

 「涼……」

 「ま、そういう訳だ。 諦めろ。 じゃあ、みんないこうか」

 「うん、響君。 じゃあバイバイ涼君。 もう会うこともないと思うけど、涼君の幼馴染でいられて、恋人でいられて、幸せだったよ……」

 「バイバイ、涼兄ぃ」

 「バイバイ、涼お兄ちゃん」

 「さようなら、涼」

 「ちくしょう!、ちくしょう!」


 今日、私は幼馴染で恋人だった涼君に別れを告げた。

 本当は、別れたくなんてなかった。

 でも、私の、いや、私達の心も身体も穢されてしまった。

 複数の男達によって行われた数カ月に及ぶ性的暴行と薬物使用によって私達の身体はボロボロになってしまっていた。

 でも、涼君に本当のことを知られたくなかった。

 だから、私達は大芝居を打つことにしたのだ。

 響君には大変申し訳ないけど、悪い間男役をしてもらった。

 私は響君にNTRられた浮気女として、他の三人は響君に騙された哀れな女として涼君の前から姿を消すと……。

 そうすれば、彼の中の私達は綺麗なまま、ううん、私は涼君という恋人がいながら他の男性と浮気した尻軽女として記憶され、そして消えていくんだろうな。

 そう思うと悲しくなる反面、ほっと安心している自分がいる。

 そして明日からは涼君のお姉さんの絵美さん、涼君の妹の瑠偉ちゃん、私の妹の静香、そして私の四人の長い長い療養生活が始まる。

 元の身体に戻るかは判らない。

 精神だって、何処か壊れてしまっていて、正しい判断ができなくなっているらしいから、普通の生活に戻るのも難しいかもしれない。

 絵美さん、瑠偉ちゃん、静香には、謝っても謝り切れない。

 三人は私のせいで巻き込んでしまったのだから。

 でも、三人は私を責めない。

 逆にそれがとてもつらい。

 そんな中で私にとって、私達にとって響君は希望だ。

 あの悪夢のような日々から、助け出してくれた響君。

 それだけでなく、病院や引っ越しの手配、両親への事情説明、警察への被害届の提出、弁護士の手配、今後の生活の面倒まで見てくれている。

 そんなにしてもらって心苦しく思っている私達に「気にするな」って言ってくれる。

 本当に謎の人だ。

 私達はそんな彼に心惹かれた。

 心も身体も穢された私達の好意なんて迷惑なだけだと諦めていた。

 けれど、薬物の中毒症状が私達四人を襲った時、響君は優しくしてくれた。

 それがとても嬉しかった、心が満たされるようだった。

 だから、響君には内緒だけど、私達は響君に一生掛けて恩返しをするの。

 響君のためだったら何だってする。

 早く元気になって、四人で、いや、響君もいれて五人で笑顔で幸せに暮らすんだ。


 あれから数か月後のある日、病室のベットに寝ていた女性が静かに息を引き取った。

 同時期に薬物中毒で入院した四人の女性・少女達のなかで、最後まで生きていた女性だった。

 その枕元には、男性を中心に周りに四人の女性・少女達が笑顔で写っている写真が飾られていた……。

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幸せになりたいな 龍淳 燐 @rinnryuujyunn

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