第34話 休戦
その日の授業中。
授業といっても大体の科目はテストの返却及びその解答解説だ。
今俺の手元には数学のテストが返却されていた。
95点……。
学年順位及びその成績を見るに、俺が白川に敗れた原因はこれだ。
貼りだされるのは総合点数と順位のみ。
つまり各科目ごとの点数は試験が返却されてからでないと分からないといった仕組みになっている。
俺の総合点数は満点から5点低かった。
つまりこの数学のみ失点、あとの科目は全て満点だったということだ。
対する白川の点数は満点から4点の失点。
1点で学年一位か否か。
正直全く予想していなかった結果だ。
それと、これは正直どうでも言いっちゃどうでもいいことなのだが……俺たちの名前の少し下に梨花の名前があった。
いつもは学年内で中層に位置している梨花が珍しくトップに迫っていたのだ。
それでいて翔太は学年真ん中。
今回の期末テスト。勉強会のメンバーは俺を除いて予想以上の結果を残したと言っていいだろう。
そうして迎えた放課後。
帰ろうかと教科書などを鞄に閉まっている俺の前に奴は現れた。
「今回の勝負。俺の完敗だ……ていうか、好きな女にも負けた時点でまだまだだな俺は」
そいつは紛れもなく新庄だ。
「そうか。約束通り俺とLIME交換してくれるんだよな」
「もちろんだ。男に二言はない」
そう言って新庄はポケットからスマホを取りだして俺とLIMEで繋がった。
らしくもなく、新庄のプロフィール写真は野球ボールのイラストだった。
丸い枠にぴったりと収まっている。
「ありがとう」
「ああ。だが、俺はこれで諦めたりしない。なあ白川……」
新庄は俺の前の席に座っている白川に何か言わんとしているようだ。
「え? 何かな?」
「俺は今回吉田との勝負に負けた。でも次も……その次も何度でもこいつに勝負に挑む。構わないか?」
「べ、別に構わないけど……私と吉田君が本当に付き合ったとしたらどうするの?」
「くっ! そ、それは……」
それは考えてなかったといった様子で新庄は言葉を詰まらせる。
「なんちゃってね。それがあり得るとしてもまだ大分先だろうし……いいよ。何度でも吉田君と勝負したら?」
「あ、ありがとう。じゃあ吉田。この対決は一旦休戦だ」
新庄はそう言うと頭を下げて一礼し、俺たちの教室から出て行った。
「いいのか? あんなこと言って。もし俺が負けたら……」
「あれ? 心配してくれてるの?」
「いや、もしもの場合があるかもしれないからな」
「あれぇ? あの吉田君が弱音吐いちゃってる? 私は君を信じて言ったんだけどな」
「そうだな。俺は負けない。何せ最強主人……」
「最強だろうがなんだろうが、私は吉田君を信じてるからね!」
「あ、ああ……」
俺としたことが、何を弱気になっていたのだろう。
最強なら、どんな状況を強いられたとしても勝たないといけないのだ。
白川のおかげでそれを再確認できたとでも言うべきだろうか。
「帰ろうぜ悠」
「ああ」
「またね。吉田君」
いつも通り、俺は翔太と帰った。
☆☆
夜。
俺はベッドでスマホをいじっていた。
白川とのメッセージのやり取り中である。
『私の点数凄くない?』
学校では喋れなかった内容について喋っていた。
『そうだな。同時に俺のレクチャーも凄かったと言えるが』
『そ、そうだね笑 いや、本当にそうだよ。じゃなきゃあんな点数取れないよ』
俺はこのテスト週間が始まる前、正確には初の勉強会が行われる前に白川にある提案をした。
それは白川自身も新庄にテストに勝つということだった。
新庄は好きな女目掛けて今回の勝負を挑んできた。
だから俺が負かすのに加えて、その相手にも負けるという追い打ちをかけようとしたのだ。
だから俺はこの二週間の間、夜に二時間ほどビデオ通話で徹底的に白川にマンツーマンでテスト対策を行った。
実際、模擬試験などの範囲が絞れない内容ではない学校のテストなんて、配布される問題集や教科書を見てある程度研究すればどこがテストに出てくるかなんて予想できる。
あとはそれを白川に隅々まで伝えれば終わりだ。
『吉田君のおかげで最高の夏休みを迎えられそうだよ』
『そうか。よかった』
『夏休み、いっぱい遊ぼうね。そして思い出たくさん作ろう!』
『頑張る』
スマホの向こう側の白川がどんな表情をしているのか容易に想像できる。
その後は少し雑談をして、お互いテストからの疲労かが今更来たのか、今日は眠ることにした。
明日は終業式。
午前授業なため実質休みのようなものだ。
いよいよ夏休み……か。
去年までは長期休暇なんてオタク活動に捧げることしか考えていなかったが、今年はどうなるやら。
そんなことを考えているうちに、俺の意識は夢の中へと吸い込まれていった。
学校一の美少女が授業中に寝言で俺の名前を叫んだ 空翔 / akito @mizuno-shota
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