第10話
住宅街を抜けると久しぶりに視界が明るくなり、一希は思わず目を細めた。
「ちょっと眩しいけど、住宅街に行ったあとはこの輝きが恋しくなるよね」
「そうだな」
一希と同じように目を細めた伊織が言う。登慈も頷いて同調した。
行きと同じように路面電車に乗り込み、本部へと帰る。
本部にたどり着くと黄怜が門の前に立っていた。
「伊織!」
「ただいま戻りました」
一希たちの姿を見つけると黄怜は伊織の名前を呼びながら慌てて駆け寄ってきた。
心配そうな表情で一希たちの姿をくまなく見る。
「もうとっくに見回りの時間は終わっているというのに、おぬしらが帰っておらぬと聞いて慌てたぞ」
「すみません、帰ろうとしたところで悪鬼と出会しまして。それについて報告したいことがあります」
「ふむ、聞こう。だがそのまえに、怪我はしておらんな?」
「はい。みな軽症です」
「そうか」
伊織の言葉に黄怜は安心したのか、ほっと息をはいた。
本部に入り、一希たちは黄怜の部屋で腰を下ろす。
「で、報告とは?」
「はい。俺たちが見回りで出会った悪鬼たちなのですが」
「集団行動してたんだよー」
「こら」
伊織が神妙な顔つきで知性のある悪鬼の話をしようとしたところで、遊太の気の抜けた声が挟まり重たい雰囲気が漂っていた空間が和む。
「ほう、集団行動とな」
「はい、合計で二十体ほどの群れをなしていました」
「すべて討伐は完了しております」
「そうか、よくやった」
伊織とさらが真面目に報告を行なっている中、遊太と登慈は飽きたのか部屋にあった囲碁の駒をいじって遊んでいた。
一希は遊びに交わることもできず、伊織たちの少し後ろで黙って黄怜への報告を聞いていた。
「群れにはリーダー格の悪鬼もおり、他の悪鬼たちが彼を庇う様子も見られました」
「そうか……群れをなすからには司令塔がおってもおかしくはないな」
黄怜は神妙な顔をして考え耽る。
「わかった。このことは自警団や他の街の者にも伝えておこう」
「お願いします」
「任せておけ。ところで、そのリーダー格の悪鬼は誰が倒したのだ?」
顔を上げた黄怜は頷くと、ころりと雰囲気を変えてそう尋ねた。
「僕ーって言いたいところだけど、お兄さんだよ」
「なに?」
囲碁の駒をなんとか積もうとしている遊太の言葉に黄怜の顔色が変わる。
「隊に入ったばかりの一希に戦わせたのか?」
「えっ、いや……はい」
黄怜の言葉に圧を感じながら、伊織が頷いた。
「一希、怪我はないだろうな」
「えっ、ありませんけど……あの、伊織さんたちは俺に仲間を呼ぶように言ったんです。それを俺が地図を覚えてなくてできなかっただけので、無理矢理戦うように言われたわけでは……」
急に黄怜の視線が一希に向き、一希は動揺しながらも答える。
「本当だな? 本当に怪我をしていないな?」
「はい」
何度も繰り返し尋ねる黄怜に一希は頷く。
「……ふん。怪我をしていないのならよい。しかし、今後無理をして怪我をするようだと許さんぞ」
「はい、肝に銘じておきます……」
少し怒っているように見える黄怜を刺激しないように一希は素直に頷いた。
「俺も今後、あのような状況にならないよう気をつけます」
「いや、伊織が慎重に動いていたことくらいわかっておる。心配のあまり少し言いすぎただけだ、気にするでない」
「はい」
黄怜への報告が終わり、一希たちは部屋を出る。
「はー、やっと終わった」
「お前は遊んでただけだろうが」
「ふふ、お腹空いてきちゃいましたね」
「食べに行くか」
「そうだ! みんな、今日はセンパイの奢りだよー!」
「なんでだよ!」
遊太が軽やかに入り口へと向かう。
伊織の大声が廊下に響き渡った。
さらと登慈がくすくすと笑う。
約束した、いやしてない、という二人のやりとりを聞きながら一希の頬も緩んだ。
見慣れないものや不思議なものが溢れるこの世界で、彼らとともに過ごすのは案外悪くないかもしれない。
白夜の自警団 ―悪鬼と踊る二日間― 西條 ヰ乙 @saijou
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